若い歌人を発掘「新鋭短歌シリーズ」10年…SNSのブームを後押し、「裾野広げた」
「新鋭短歌シリーズ」の刊行は、2013年5月から始まった。推薦や公募で寄せられた作品から、歌人の加藤治郎、東直子さんらが選定、監修し、これまで計60冊が出版された。
1万部を超えるヒット歌集が生まれたり、短歌の新人賞を受ける歌人も輩出したりしてきた。短歌を読んだことがなかった若い世代にも浸透し、SNSなどで広がる「短歌ブーム」を後押しした。一冊一冊をひもとくと、この10年という時代の諸相が見えてくる。
〈女でも背中に腰に汗をかくごまかしきかぬ作業着の色〉(奥村知世『工場』)。社会が男女共同参画を推進するなか、工場という「男性職場」で働く女性の心情が淡々と詠み込まれる。
引きこもり生活を送りながら、短歌と出会って他者との関わりを取り戻した人の歌もある。〈他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま〉(虫武一俊『羽虫群』)。
また、東日本大震災の被災体験も刻まれる。〈見た者でなければ詠めない歌もある例えばあの日の絶望の雪〉(佐藤涼子『Midnight Sun』)。
短歌が若い世代に広がった背景について、田島さんは「社会を覆う閉塞感があると思う。どこにも持って行きようのない感情と折り合いをつけるために、短歌が選ばれているのではないか」とみる。31文字の短い表現形式ながら、「情感を込められる短歌には、自分のことを詠んでくれていると、共感を呼ぶ力がある」と言う。
刊行の出発点には、09年に26歳の若さで亡くなった佐賀県の歌人笹井宏之さんの存在があった。かなしさ、さみしさをたたえた数々の歌を残し、没後に書肆侃侃房から遺歌集『てんとろり』などが刊行されると、SNSなどで大きな反響があった。