「アートとサッカー近い関係」 日比野克彦さん、古里・岐阜へ思いも
アートとスポーツはとても近い関係だと日比野さんは指摘する。「幼くてまだ言葉がつたない時の人間の本能的な表現が、『お絵かき』と『お遊戯』。その延長にアートとスポーツがある」。どちらも自分の体を動かして表現する面白さがあるからこそ、世界中で共有されると考える。
日比野さんは1968年のメキシコ五輪で日本がサッカーの銅メダルを獲得したのを機に、自身でもプレーを始めた。これまで国際大会に合わせてスポーツとアートの交流を目的にしたワークショップを開催するなど、自らの本業にもサッカー経験を生かしてきた。
サッカーの魅力は「プレーに地域性が出ること」だという。野球やゴルフなどには正しいとされるフォームがあるが、道具をほぼ使わず、手に比べ器用ではない脚でボールを操るサッカーは、選手に「地域や民族の身体的な癖が出る」。観客はその癖から自分たちの代表がプレーしていると感じ、応援に熱が入る。「地域の特徴が大きく表れるという面で、サッカーは特にアートに近いスポーツだと思う」
異なった文化を持つ人たちが出会うところから、新たな文化・芸術が生まれると考える日比野さん。「スポーツは相手がいるからこそ試合ができる。芸術も他者との違いが基になる」。いずれの分野でも差異を意識することで、自らの活動やスポーツを含む文化の向上を目指している。
そして古里の岐阜市での思い出も、日比野さんのアーティストとしての活動に影響を与えている。忘れられないのが、小学1年の時の学芸会で「銀行のお茶」という劇を演じたことだ。
当時、学校前のバス停近くに銀行の支店があり、夏になるとバス停に並ぶ子どもたちが冷房の利いた支店に入ってお茶を飲むようになった。その一連の経緯を創作劇にまとめ、支店の人も招いた学芸会で披露した。今でも当時の風景がリアルによみがえるといい、「演技を通して過去の自分に立ち返ることができ、それが表現の面白さだと感じた。日常の出来事が表現に結びつき、その感覚が今の活動につながっていると思う」と語る。
アーティストとしての原点となった古里でお気に入りの場所は、長良川だ。夏の日はよく泳ぎに通った。「泳ぎ疲れた体を河原の石の上で温めながら、きらきら光る川面をぼうっと眺める時間が好きだった」。ずっと川で泳ぎ、小学生の時に初めて海に行った時は、海水が塩辛いのにびっくりした。長良川と金華山頂の岐阜城を見慣れているので、平地の城を見ると、不思議な感覚になるという。
2024年秋には、岐阜県で国民文化祭が開催される。基本構想検討会議の座長を務める日比野さんは「文化が社会に貢献できると実証したい」。古里を文化でさらに彩る意気込みだ。