Bunkamura ザ・ミュージアム長期休館前最後。「マリー・ローランサンとモード」展に見る激動の時代のパリ
ザ・ミュージアムでついに開幕した。本展は、同館の長期休館前最後の展示となる。会期は4月9日まで。
ローランサンに焦点を当てた今回の展示において、なぜモードやファッションが重要な柱になったのか。マリー・ローランサン美術館館長の吉澤公寿は、「マリー・ローランサンの母親はお針子をしており、その仕事で使用する綺麗な布というのは彼女の美意識の始まりにありました」と語る。
さらに、ローランサンと同じ1883年に生まれで、ともに自由な時代を生きる女性の代表的存在だったココ・シャネルに関する資料も多数展示。モダンとクラシックが絶妙に融合する両大戦間のパリの様相を俯瞰する構成になっている。
展示構成は、第1章「レザネ・フォルのパリ」、第2章「越境するアート」、第3章「モダンガールの登場」、エピローグ「蘇るモード」。会場に並ぶのは、オランジュリー美術館やマリー・ローランサン美術館から集められた約90点だ。
第1章のタイトルにある「Les Années
Folles」は、仏語で「狂乱の時代」という意味。この章でスポットを当てる1920年代は、混乱を極めた戦間期であり、第一次大戦を乗り越えた人々が自由を取り戻すように芸術とファッションが大きく変化した時代でもあった。
まず来場者を迎えるのは、本展の主役を描いた《わたしの肖像》と《マドモワゼル・シャネルの肖像》だ。ローランサンとシャネルに続いて、男爵夫人や伯爵夫人、舞台女優の肖像が並ぶ。第1章の最後には、シャネルの服をまとうローランサンの姿を収めたポートレイトも展示されている。
本展を通して肖像画は数多く展示されているが、それは威信や威厳のある写実的な像ではない。淡い色彩やかたちが画面の上でモチーフと合わさって生まれる、伝統的な肖像画とは違う「新しさ」を備えた肖像画なのである。
第2章「越境するアート」では、絵画以外の分野におけるローランサンの表現を紹介。「ローランサンとバレエ・リュス『牝鹿』」と題された第1部では、ローランサンが舞台芸術や衣装を手がけたバレエ作品の資料を展示。当時のパンフレットは、思わず手に取りたくなるほど洗練されている。
そして、同じくバレエ・リュスとシャネルの協働を取り上げる展示が続く。同じ表現領域だからこそ、ローランサンとシャネルの類似性、あるいは差異を十分に感じられるかもしれない。
その後は、ローランサンの装飾芸術を堪能したい。鳩や花といったモチーフの絵画や、モードの先駆者ポール・ポワレの妹でローランサンの生涯の親友のアンドレー・グルーを描いた肖像画も展示されており、1910~1930年代の雰囲気や時代の流れを伝える空間になっている。
第3章は「モダンガールの登場」は、シャネルに先駆けて女性をコルセットから解放したポール・ポワレの仕事から始まる。展示は、歴史と同じくポワレからシャネルへと接続していく。
第2部「シャネルの帽子店」、第3部「ローランサンと帽子の女たち」という構成も見事。シャネルが生み出した帽子を、ローランサンが愛用し、キャンバスにも落とし込んで行ったというところに、同年に生まれ、共に時代を切り拓いた二人の関係性を強く感じられるだろう。
「1920年代:モダンガールの登場」では、シャネルの名言とともにドレスやN°5の広告を展示。「1930年代:フェミニンへの回帰」では、シャネルを思わせるモノロームの展示エリアに、シャネルをとらえた写真作品などが並ぶ。
本展のファッション監修を手がけた成実弘至(なるみ・ひろし)は、この1930年代について「世界恐慌が始まると、ファッションも保守的に、装飾に回帰した」と解説する。
「1930年代のローランサン」でも、いっそうフェミニンへの回帰が感じられるかもしれない。花や女性を柔らかく描いた3作品が飾られており、その真骨頂とも感じられる豊かな色彩や筆致に惚れ惚れすることだろう。
「エピローグ:蘇るモード」では、本展のメインビジュアルにも採用されている《ニコル・グルーと二人の娘、ブワノットとマリオン》が鑑賞できる。これに合わせて、シャネルの2011年のコレクションからドレスや映像、写真が展示されており、現代につながるモードや美意識を感じる空間となっている。
担当学芸員のひとりである菅沼万里絵は、本展に際して次のように話した。「本展はマリー・ローランサンの回顧展ではありません。習作から晩年の作品までを展示し、その生涯を振り返るということはしません。その代わりに、ローランサンの黄金期の作品を、当時のファッションなどと合わせて展示することで、ローランサンの表現の独自性や特性、当時のパリの雰囲気を知っていただける展示になっています。また、激動の時代の最中で同時に女性たちが積極的に発信していたこと、いろんなことを乗り越えた女性たちが活躍できる時代だったということも、本展を通して感じてもらえたらと思います」。