長坂常が尾道の民家を創造拠点に改修するクラウドファンディングを開始!
案内されたのは1軒の民家。2018年にできた宿泊施設〈LOG〉のそばに建つ築110年の2階建てだ。かつて作家・志賀直哉が暮らした長屋に隣接するゆかりある建物。長坂さんはここを昨夏譲り受けた。一体なぜ?
長坂さんは生粋の水好きで、瀬戸内の港町・尾道もお気に入り。しばしば通う中この家に出会った。
「オープン間もない〈LOG〉から見えて、すごく素敵だった。普段そんなこと考えないのに、『ここで何かしたい』って思ったんです」
維持管理に悩む旧オーナーの思いを受け継ぎ新オーナーとなった長坂さん。「坂道が多い尾道は高齢者には住みづらく、空き家が増えている。失われると取り戻せない街並みだから、ここを拠点に地域をもり立てたい」と街並みの保存と地域活性化をも目論む。果たしてこの場所を、どう活用するのだろう。
「世界中から訪れるクリエイターに中長期的に滞在してもらえるアーティスト・イン・レジデンスのような場所として活用していく予定です。彼らが滞在しながらそれぞれの活動を行い、そこに地域の人たちが参加する、国際交流の場をつくりたい」
アーティストの滞在制作を支援する場は各地にあるが、この構想には“LLOVE”というキーワードが関係する。というとピンと来る人は多いのかもしれない。そう、長坂さんが建築ディレクションを行い2010年の1か月限定で東京・代官山に出現した、泊まれるインスタレーション作品〈LLOVE〉だ。
リチャード・ハッテンらオランダのデザイナー4組と長坂さんをはじめとする日本の建築家4組がデザインした「宿泊可能な作品」を記憶する人は少なくないだろう。
この〈LLOVE〉のコンセプト「愛の満ち溢れたホテル」を考案したのがスザンヌ・オクセナール。オランダ・アムステルダムの元刑務所を転用したホテル〈ロイドホテル〉の共同創業者だ。長坂さんはオクセナールさんに連絡を取り、尾道の新拠点の構想を伝えた。
「小さなスケールから世界とつながり、深い絆を育むことができる創造拠点を尾道につくりたいと、スザンヌに相談しました。昨年ヴェネチア・ビエンナーレに参加して、世界中から作品が運び込まれ、それを見るために世界中から人が来るというあり方に少し疑問を感じました。今は大型イベントで集わなくても個人が作者に直接連絡し、作品が生まれた現場に行って、一対一でコミュニケーションすることもできるはずなので」
連絡手段が多様な現代では作品や情報を一拠点に集中させるのではなく、地方と地方で分散的につながり、連鎖的に文化交流を生み出していくことに可能性があるーーそんな長坂さんの思いにオクセナールさんが返したのは、“HOUSEとは何か”という問いだった。
「スザンヌは『恐怖と破壊が生活に不安を与える時代、“家とは何か”を追求していくことが大きな挑戦となる』と応援してくれました。このプロジェクトを僕たちは〈LLOVE〉のコンセプトを引き継ぐ“愛に満ち溢れた家”〈LLOVE HOUSE〉と名付け、〈LLOVE〉から10年あまりで築かれた海の向こうの友人たちとのコミュニティを核に、尾道を足がかりとして世界中の貴重な風景を守って行きたいと思っています」
この家を管理するため、すでに長坂さんが主宰するスキーマ建築計画元スタッフの中田雅実さんとプレス担当の松井納都子さん夫妻が双子の息子さんたちと共に尾道に移住している。