《カードゲーム》を遊びつづけ、散発の総体が展示となる。大岩雄典「実効|Work」が開催中
大岩雄典は1993年埼玉県生まれ、東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程に在籍中の美術家。主にインスタレーション・アートの制作・歴史について研究するほか、近年はマイケル・フリードの批評やメディウムとしてのカード・ゲームについても扱う。主な展覧会に
「可能|Possible」(PARA神保町、2022)、「渦中のP」(十和田市現代美術館サテライト会場「space」、2022)など。
西村梨緒葉は1996年生まれ。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻卒業。主な個展に「ハッピーエンド」(ニュースペース
パ、2021)があるほか、文化庁メディア芸術祭受賞作品展アート部門、エンターテインメント部門(2021~22)ではアートコーディネーターとして活動してきた。
本展は、大岩によるインスタレーション作品《カードゲーム》(2022)を中軸に構成される。将棋などの競技が、一度ごとの試合だけでなく集団によって何世紀も「プレイ」されて共同知がはたらくように、本展ではこの《カードゲーム》を遊びつづけながら、作品にはたらく新たな動詞「実効(Work)」を提案するという。
昨年の展示では、カードに書かれた「呪文」の読み上げに伴い「鑑賞=プレイ」されていくものとして《カードゲーム》という作品を提示した大岩は、その後、作品は作家の手中にとどまらず「拡張=制作」される可能性に開かれいると気づいた。設計のデザインにとどまらず、誰でも新しく戦法がひらめくこともあれば、新たに書いたカードを山札に加えるだけで作品の空間が拡張されていくともいう。
本展は、会話やドキュメントの共同編集を採用し現在進行形で書き換える「ハッキング」を可能にしたことで、これまで展覧会に前提されてきたような作品・観賞・会場といった「言葉」のあり方を問いかけるという側面も持っている。
なお会期中には、不定期に開催される試遊会や8月の大会などイベントが多数開催され、訪れることで「実効」が生まれていく。11月にはPARA神保町で雀荘のかたちをした収穫祭「ガラ(特別興行)」を実施し、「実効」された成果やそこから「実効」される可能性を持ち寄り共同知として堆積するホットスポットとして、日夜オープンするという。
長期にまたがる散発の総体そのものが展覧会となるという本展。全貌が明らかになる最終日まで、鑑賞者の参加は多様な可能性に開かれたままという、類を見ない展示と言えるだろう。