信長の側室眠る久昌寺「市の見どころに」 保存意欲、市民は歓迎
元文化庁職員で市文化財保護委員の長谷川良夫さん(90)が独自調査で信長時代の天正年間(1573~92年)の古材が残る可能性を指摘したことを受け、市は長谷川さんに再度の調査を依頼。その結果、庫裏と本堂天井裏の古材から天正期の加工痕を確認し、「本堂だけでも保存すべき」と市に提言した。
沢田市長の意欲について長谷川さんは「良い判断。財政面から反対する声もあると聞くが、本物を残しておけば観光名所として活用可能。尾張の偉人ゆかりの寺をなくしてはならない」と語った。別の委員は「保存だけでなく活用策が重要で、委員間でも話し合いたい」など歓迎の声が上がった。
解体工事前には、ドローンを飛ばし映像を撮っている。撮影した同市の高校生プロドローンカメラマン、小沢諒祐さん(18)も保存について「京都にあるかのようなお寺で解体はもったいないと思っていた。残せば市の見どころになる」と話した。
同寺の案内もするボランティア団体「市歴史ガイドの会」の富田弘美会長も「諦めていたので大歓迎」と歓迎。解体前はガイド依頼が増え「残してほしいとの声が会にも多く寄せられていた」とし、会として市に保存を後押しする要望書を提出する意向を示した。
存続を望む声は市の内外から多く寄せられてきた。吉乃は地元有力者だった4代生駒家当主家長の妹で、信長最愛の女性とされる。信長の側室となり長男信忠、次男信雄、後に徳川家康の長男信康の妻となった徳姫をもうけたとされる。
1月には19代生駒家当主がそうした歴史について講演。希望者多数のため急きょ2度実施され、関心の高さがうかがわれた。講演を聴いた同市の会社役員、村瀬栄次さん(72)は「駅前再開発と合わせた活用を考えてほしい。お金の懸念もあるが、壊してしまってはお金では元に戻らない。市の宝」と語った。
3月に神奈川県から寺を訪れた会社員、高野浩司さん(47)は保存意欲に「非常にうれしい。吉乃の子どもたちの歴史的存在感も高いので、そこも含めて観光資源としてPRしてはどうか」と提案していた。
保存の意向から一夜明けた20日も、工事用の囲い越しに寺を見る人の姿があった。一宮市から同級生と訪れた主婦(76)は「残るのであればまた来たい。本堂の中に入って信長時代の古材を見たい」と話し、保存後の活用に期待していた。【川瀬慎一朗】