映画『わたしたちの国立西洋美術館』に見る、岐路に立つ国立美術館のリアル
国立西洋美術館
は、言わずと知れた日本を代表する西洋美術専門の美術館。フランス政府から寄贈返還された約370点の松方コレクション(印象派の絵画およびロダンの彫刻を中心とするフランス美術コレクション)がその基礎となっており、1959年の開館以来、数々の展覧会を開催してきた。1994年には「バーンズ・コレクション展」で同館過去最多となる入場者数107万人を記録したことでも知られている。
東京・上野公園のなかに位置する同館は、2007年に重要文化財に指定(本館)、16年には「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の構成資産のひとつとして世界遺産にも登録されるなど、その建築も含めて唯一無二の存在と言えるだろう。
20年10月からは、ル・コルビュジエによる当初の前庭の設計意図に基づき、可能な限り開館時の姿に近づけるという整備が行われ、
22年4月にリフレッシュされた姿が公開されたことは記憶に新しい
。『わたしたちの国立西洋美術館』は、工事休館中の国立西洋美術館にカメラが入り、1年半の長期間にわたって美術館に密着したドキュメンタリーだ。
同作の構成要素は大きく分けてふたつ。ひとつ目は、工事に関わるハード面だ。映画のなかでは、工事のために前庭にあるロダンの《カレーの市民》や《考える人》などを慎重に移動させる様子や、通常非公開の収蔵庫、作品がすべて撤去されたからっぽの美術館内部など、映画でしか見られない貴重なシーンを見ることができる。
もうひとつの構成要素は、美術館を支えるプロフェッショナルたちと国立美術館の構造的な問題、つまりソフト面だ。
本作では、ふたりの館長(馬渕明子[在任期間:2013~2021]、田中正之
[在任期間:2021~])やキュレーターはもちろんのこと、保存修復や情報資料室など、様々なジャンルで美術館に携わる専門家にもカメラが向けられ、個々人の活動や美術に対する考え方も収められている。普段、なかなか表に出ることのない活動に光が当たることで、美術館がいかに複雑な機能を有し、高度な知識と技術によって支えられているかがはっきりとわかることだろう。
いっぽう、国立美術館の増えない予算や共催メディアへの依存(同館の企画展の多くは新聞社やテレビ局との共催。費用は基本的にメディアが負担する)
など、構造的な問題も関係者インタビューやジャーナリストらの証言によって指摘されている。
日本の美術館をめぐる状況は決して楽観視できるものではないが、だからこそこの映画はいま、見られる必要があるだろう。文化行政関係者や美術館関係者はもちろんのこと、アートファンも必見の一作だ。