『限界国家』とは何か:作者・楡周平氏が最新刊について語る
経済・企業小説で定評のある作家の楡周平氏が、日本の近未来を予測した小説を上梓した。急激な人口減少による少子高齢化と、テクノロジーの劇的な進歩によって、これまでの知識や経験則では生き抜いていけない世の中になるという。日本はどうなるのか。著者に聞いた。
「限界集落」ならぬ「限界国家」──。地方の山間部では、極端な過疎化、高齢化によって65歳以上の高齢者が人口の5割を超え、生活が成り立たなくなっている事例が急増している。これを「限界集落」というが、本書の表題は、地方の問題だけにとどまらず日本という国自体が限界を迎えつつあることへの警告である。著者は日本の将来をどう見ているか。
「これから迎える危機について、日本人はあまり実感していないのではないかと思います。私が本書で書いたような将来の厳しい状況に、みなさん、『そういうことってあるだろう』と分かっている。しかし、テクノロジーの進歩による産業構造の変化について、『いつか来る』くらいの感覚で漫然と構えていて、何も備えていない。少子高齢化の弊害についても同様です。でも、来るものは必ず来る。たいていは、かなり直前になってから騒ぎ始め、そこで『なんとかしなきゃ』となるのだけれど、そのときに慌てても、もはやどうにもならない。そんな現状を危惧して書いたのがこの作品です」
物語は、年老いた有力財界人が世界最大級の米国コンサルティング会社の日本支社を訪ねるところから始まる。彼は日本の行く末を憂い、20年、30年後の日本がどういう姿になっているのか調査してほしいと依頼する。危機意識のもとになっているのが少子高齢化だ。人口動態統計によれば、2040~50年の間に日本の人口は1億人を割って9700万人となり、さらに60年には8600万人台になると予想される。依頼を受けて、シニア・パートナー職にある女性幹部と若手社員が専門家からヒアリングを開始する。そこで浮かび上がってくる深刻な問題の数々。地方の過疎化と内需型経済の破綻、人工知能(AI)の進化による職業寿命の短命化、移民の問題、伝統文化の崩壊、人材の海外流出──。
「日本の人口減少は避けられない。これからは世界へ出て行かなければ生きていけなくなるでしょう。でも語学ができないでは駄目。みなさんどうやって生きていくのか、若い人なら、どういう学校に入るのがよいのか、また職業の選択をするに当たって、長期的ビジョンを立てて考えていかなければならない。そのときに一番参考になるのが人口動態統計です」
「人口減少というのはとても恐ろしいもので、特に日本のような国で言うと、GDPの7割が内需であって、日本は内需依存型の経済です。そういう国では人口が市場規模そのものですから、人口がどんどん減っていけば、当然、市場規模はシュリンクしていくわけです。内需依存型経済は2040年代で終わりを告げる。そうなったときに、どこに活路を見出すのか。ところが、そういったことが全然論じられてこなかった。政治の世界もそうですし、産業界も同様です」
「1億人の人口を維持していくためには、合計特殊出生率でいうと2.07が必要です。つまり、1組の夫婦から2人ちょっと以上の子供が生れなければならない。ところが今の日本は1.2まで落ちている。1組の夫婦から1人ちょっとしか生まれていない。2.0を割った時点で、これはものすごく深刻な問題になると本当は気が付かなければならなかった。いまの産業市場規模を維持したいのなら、人口が減らないためにどうしたらよいか、真剣に議論しなければならなかったのです」