田根剛〈弘前れんが倉庫美術館〉完成までの軌跡が1冊に。
2020年に青森県弘前市に完成した〈弘前れんが倉庫美術館〉。元々はシードルの製造のために使われていた煉瓦倉庫を美術館へと生まれ変わらせたのは、建築家の田根剛。煉瓦倉庫との出会いから完成までの彼の歩みと、そのはるか前から連綿と続く煉瓦倉庫、そして弘前の地の歴史を1冊にまとめたのが、7月に刊行された『弘前れんが倉庫美術館-記憶を継承する建築-』だ。
ページを開くとまず目に飛び込むのは、写真家の畠山直哉が撮影した、以前の煉瓦倉庫の姿。剥がれた屋根や剥き出しの梁など、美術館になる前の姿をありのままに写し出すことで、煉瓦倉庫の歴史を読者に伝える役割を果たしている。
田根は建築を手がける際に、「考古学的リサーチ=Archaeological Research」という方法論を用いる。その土地の歴史を徹底的に調べ、それを未来へと継承する建築を考案する手法だ。この〈弘前れんが倉庫美術館〉を手がける際にも、その方法論に基づき、煉瓦倉庫の歴史だけでなく、弘前という土地が歩んできた道のりや、れんがそのものの起源に至るまでを丁寧にひも解きながら、その記憶を内包し未来へと受け継いでいく建築を目指した。
本書は、そんな田根の建築への姿勢を反映した作りになっている。先述の畠山による写真を収めた章「煉瓦倉庫の記憶」に始まり、次の章「弘前の記憶と美術館の構想」では、弘前の街の成り立ちや弘前にりんごが伝わったきっかけ、煉瓦倉庫を手がけた実業家・福島藤助の生涯や、2000年代にこの倉庫を使って開催された奈良美智の個展など、煉瓦倉庫を中心とした土地の歩みを順に追っていく。