国が設立する「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」とは何か? 求められる横串の基盤整備
3月11日、文化庁は国立新美術館で文化庁アートプラットフォーム事業と今後の展望に関する記者会見およびシンポジウム「グローバル化する美術領域と日本の美術界:我が国現代アート振興の黎明期 ~アート・コミュニケーションセンター(仮称)と国立美術館に期待する役割~」を開催。今後の政策の肝となる「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」について議論が交わされた。
「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」は、データベースやウェブサイト、相談窓口など国内美術館のハブとしての機能を持つもの。令和4年度に設立予定で、初年度の予算は8億5000万円。次年度以降も予算は計上される。
日本では独立行政法人国立美術館が7つの国立館(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館)を所管しているが、センターはこれらをつなぐ役目を持つ。共同収蔵や修復などを含めた作品活用促進や情報収集、ラーニング、社会連携など、各館に共通する課題を検討し、世界との窓口も担うことで日本のアート振興に寄与するという。館単独では登用が難しいコンサバターやPRなどのプロフェッショナル人材を、センターで共有することも期待される。
遡ると、文化庁は2013年度に初めて現代アート関係の予算を計上。それ以降、「文化庁アートプラットフォーム事業」(2018年度~)や文化経済部会新設(2021年度)など、アート振興を目的とする政策に取り組んできた。2014年時点ではすでに日本現代美術館の核となる機関の必要性は指摘(2014年10月「現代美術の海外発信に関する検討会」)されており、「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」の設置は、必然的な流れとも言えるだろう。
この「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」のエグゼクティブ・アドバイザーを務めるのは、森美術館館長でCIMAM(国際美術館会議)会長でもある片岡真実。片岡は90年代以降、アジアのアートシーンにおいて「国際展」「近現代美術館」「アートフェア」が3種の神器となってきたとしながら、美術館行政については日本が先行していたとするいっぽうで、香港、上海、シンガポールなどが急速に発展を遂げた現実を指摘。アジア諸国と肩を並べるためにも、国内美術館の基盤整備を国が担う必要性を訴える。その基盤となるのが、今回のセンターだ。
シンポジウムではイギリスの国立機関で複数の美術館を運営する「テート」の事例などが紹介された。元東京国立近代美術館主任研究員で、現在は滋賀県立美術館ディレクターを務める保坂健二朗は、国立館での勤務経験を踏まえつつ「日本の美術館は館単位での思考となっており、それを変えていかないといけない。議論すべきとき」だと指摘する。
「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」は各館縦割りの行政に横串を通し、ソフト面を整備するためのものだが、文化庁は将来的にハード面でのハブ整備も見据える。