都の英語スピーキングテスト 割れる賛否、採点難も
フィリピンで採点
スピーキングテストは、都と通信教育大手のベネッセコーポレーションが共同で実施。民間が運営する英語試験が公立高の入試に使われる全国初のケースとなる。
都内の公立中3年生ら約8万人が対象となり、約15分間で計8問に解答。コミュニケーション能力の習熟度、文法や発音の正しさなどを評価する。生徒は防音用のイヤーマフをつけ、解答をタブレット端末に一斉に吹き込む。録音された解答はフィリピンに設けられた施設で専門職員が採点。6段階の評価に応じて20、16、12、8、4、0点を割り振り、筆記試験と内申点の計1千点に加算される。
「スピーキングの部分がはっきり言って非常に弱い。それが日本のプレゼンスを低下させてきている」
東京都の小池百合子知事は今月7日の定例記者会見で、テストの導入が必要である理由をこう語った。
読み書き偏重
多くの子供が中高で6年間も英語を学ぶのに、なぜ十分に話す力が身につかないのか。スピーキングテストを巡り賛否が割れる背景には、こうした問いに対する認識の違いがある。
文部科学省の学習指導要領は、英語の4技能(聞く・読む・話す・書く)をバランスよく育成することを求めている。だが、多くの学校では、授業が読み書きに偏りがちなのが実情だ。
都がスピーキングテスト導入のメリットの一つに挙げるのが現状の授業の改善効果。スピーキング能力の採点で、生徒ごとの習熟度が「見える化」され、各校の授業の成果を客観的に把握できるようになる。各生徒の得点は国際的な語学習得レベルを測る指標と比較でき、高校進学後などにTOEFLなど民間の英語資格試験を受けた際、英語力の伸びを確認する基準としても使えるという。
「スピーキングもきちんと評価する方がむしろ公正だ」。スピーキングテスト導入を推進する瀧沢佳宏・都教育庁指導推進担当部長はこう話す。「聞く」「読む」「書く」の3技能は入試でも定着している。「話す力が入試で問われないことで、学習が単語や構文の暗記に偏りがちになっていることは否めない。(世界標準からかけ離れてしまう)ガラパゴス入試になってはならない」
「楽観的過ぎる」
一方、実施日が迫っても、反対の声が収まる気配はない。
「テストの導入で話す力が身につくという考えは、楽観的過ぎる。日本語と英語は発音、文法、コミュニケーション方式など全てがかけ離れている。習得が難しいのは当たり前だ」
こう語るのは、スピーキングテスト導入に反対する鳥飼玖美子(くみこ)・立教大名誉教授(英語教育学)。「日本は日常的に英語を使う必要がない社会なので、話すことに苦労するのは仕方ない。焦ってテストを導入しても決まり文句を暗記するのが精いっぱいで、まともに話せるようにはならない」と指摘する。授業がスピーキングテスト対策に偏重しないかも危惧され「中学生は母語が完成し、分析力と柔らかい感性を併せ持つため、英語習得の基礎を育む最も重要な時期。大学の教職課程を充実させて優秀な教員を確保し、少人数授業を行うことこそが必要だ」とみる。
「約8万人を公平な基準で採点することは不可能」などとして、中止を求める署名活動も起きている。各地の学校関係者もテスト導入の動向を注視。神奈川県の公立中の校長は「対象を国際科の志願者などに限定するのが現実的。全ての生徒を対象とするのは難しそうだ」と話した。(玉崎栄次)