ICOM(国際博物館会議)、ミュージアムの新定義案を採択
Museums、国際博物館会議」。この第26回大会(プラハ)において、ミュージアムの新定義が採択された。
ICOMは、世界各地の美術館・博物館関係者4万人以上が加盟する、世界で唯一のグローバルな博物館組織。このICOMは3年に1度大会を開催しており、
2019年には京都で日本初の大会(京都大会)が開かれ、大きな注目を集めた。そのときに最大の焦点となったのが、ミュージアムの定義の改正だ。
ICOMのミュージアムの定義は、1946年に制定されたICOM憲章で初めて制定され、第2条において次のように定義されていた。「ここにいう博物館とは、公開することを目的とする芸術、科学、技術、歴史および考古学資料のすべての蒐集品と、動物園、植物園を含むものとする。ただし、常時の展観室を備えていない図書館を除く」。
このICOM憲章は51年にICOM規約として改称。ミュージアムの定義については過去6回(1961年、1974年、1989年、1995年、2001年、2007年)にわたって改正されている。これまでの改正点は以下の通りだ(ICOM日本の資料より)。
1951年(ICOM規約) 博物館の目的に、「公衆の娯楽と教育に資するための公開」を並列で追加。1961年
博物館の目的に、「研究」「教育」「楽しみ」を並列。それを実現するための博物館機能として「保管」「展示」を位置付け。1974年(コペンハーゲン大会)
博物館の目的に、「社会とその発展に貢献するため」を追加。機能として「収集」「保管」「調査研究」「コミュニケーション」および「展示」を並列で追加。
1989年(ハーグ大会)
別条であった博物館の目的と機能をひとつの条文に統合。「博物館の定義は、各機関の管理機構の性格、地域の特性、機能構造、または収集品の傾向によって制限されない」旨を追加。
1995年(スタヴァンゲル大会)
博物館とみなす対象に、「博物館および博物館学に関する保存、研究、教育、研修、ドキュメンテーションその他の活動を行う非営利の機関または団体」または「国際単位、国単位、地域単位または地方単位の博物館団体、博物館を所管する省庁または公的機関」を追加。
2001年(バルセロナ大会)
博物館とみなす対象として、「図書館および公文書センターが常時維持する資料保存施設および展示ギャラリー」を「非営利の美術展示ギャラリー」に変更。新たに「有形または無形の遺産資源(生きた遺産およびデジタルの創造活動)を保存、存続および管理する文化センターその他の施設」を追加。
2007年(ウィーン大会) 規約を全体的に簡略化。博物館とみなす対象を列挙せず、博物館の定義のみの規定とした。 第3章 定義 第1条 博物館
博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類学の遺産とその環境を、教育、研究、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する公衆に開かれた非営利の常設機関である。
この2007年で定義された第1条を改正することがICOMの目的であり、京都大会で実現すれば45年ぶりの大幅改正となるはずだった。しかしながら、大会前に5つの国際委員会と24の国内委員会から「協議時間が足りないので採択を延期すべき」との意見が出ていたことを反映するかたちで、採択は延期に。その結果、新定義案の採択はプラハ大会へと持ち越しになっていた。
そして今回、プラハ大会で新定義がついに採択された。その定義は以下の通りとなる。
“A museum is a not-for-profit, permanent institution in the service of society
that researches, collects, conserves, interprets and exhibits tangible and
intangible heritage. Open to the public, accessible and inclusive, museums
foster diversity and sustainability. They operate and communicate ethically,
professionally and with the participation of communities, offering varied
experiences for education, enjoyment, reflection and knowledge sharing.”
博物館は、有形および無形の遺産を研究、収集、保存、解説、展示する、社会に奉仕する非営利の常設施設である。一般に公開され、アクセスしやすく、インクルーシブであり、博物館は、多様性と持続可能性を育む。倫理的、専門的に、そして地域社会の参加を得て運営されるものであり、コミュニケーションを図り、教育、楽しみ、考察、知識の共有のために様々な体験を提供する。(編集部訳)
ICOMはこの新定義について、「博物館の役割におけるいくつかの大きな変化に沿ったものであり、包括性、コミュニティへの参加、持続可能性の重要性を認識するもの」だとしている。日本においては博物館法の一部改正により登録博物館への登録要件を緩和し、博物館と文化観光をこれまで以上に結びつけようという動きがある。こうした国内の動きに、今回の新定義はどのような影響を及ぼすだろうか。