海を渡る鴻池朋子の濃密な世界へ。個展『みる誕生』は自然とアートが織りなす迷宮です。
鴻池朋子『みる誕生』展は、夏会期が始まった『瀬戸内国際芸術祭 2022』のプログラムの一つ。同じく会場の一つ、大島で公開された鴻池の新作ともリンクしている。〈高松市美術館〉のあとは〈静岡県立美術館〉、〈青森県美術館〉へと各々の地と関わり合い変化しながらリレーされる。
〈高松市美術館〉では吹き抜けになったエントランスホールに足を踏み入れた途端、鴻池の世界に引き込まれてしまう。最初に目に入る、牛革でできた巨大な作品はそれぞれ《大島 皮トンビ》《高松 皮トンビ》と名づけられている。
《大島 皮トンビ》は2019年に制作され、瀬戸内海の大島の野外で展示されたあと、同年、東京の〈アーティゾン美術館〉での展覧会にも出品された。屋外で雨や日光にさらされて全体に茶色く変色している。《高松 皮トンビ》はこの個展のために制作された新作だ。〈高松市美術館〉のあとの〈静岡県立美術館〉や〈青森県美術館〉でも展示される予定になっている。
壁には薄い紙が何枚も貼られて、風に揺れている。これは展覧会の準備段階で鴻池が見つけた、〈高松市美術館〉建設時の図面だ。床には同じく彼女が見つけた、土質調査のサンプルや工事中の記録写真が並ぶ。鴻池はこの美術館がどのようにして生まれたのかを明らかにしたいと考えているのだ。多くの人が写った写真は、この場にたくさんの人々が関わったことを意識させる。
スロープを上って2階に行くと、そこからが有料ゾーンだ。が、スロープにも工事中に塗装の保護などに使う極薄のビニールや、作品である《凧》が現れる。エントランスホールからスロープには黒い紐やくさり編みにした毛糸などがつなげられ、鑑賞者の動線に沿って伸びていく。この紐や毛糸は会場の最後まで続いている。目の不自由な人がこの紐をたどっていけるように設置されたものだが、誰もが触ることができる。