「特撮研究所」所長が語る、特撮美術の父・井上泰幸。

「井上さんのセットは、カメラがどこにどう入ってもいいよう細部まで丁寧な作り。その上に『自分ならこう撮る』というイメージが常にあったようで、自身のベストポイントは特に飾り込んでいました。展示ではそこも見どころです」
今展では当時の資料のほか、実際に使われたミニチュアも並ぶ。アトリウム空間に再現された「西鉄福岡駅周辺ミニチュアセット」は今展最大の見どころ。『空の大怪獣ラドン』(1956)に登場した福岡の街並みが令和の技術で蘇った。細部まで作り込まれたセットによって、井上作品を肌で感じることができるだろう。
例えば、『ゴジラ対ヘドラ』(1971)の展示コーナーは、圧倒的な情報量で鑑賞者に迫ってくる。同作に登場する怪獣・ヘドラは成長するのに合わせて形態も変化していくのだが、そのすべてのデザインを井上氏が手がけたことは知る人ぞ知る事実。多くのデザイン画と絵コンテ、それらに添えられた細かなテキストの内容から、ヘドラ誕生秘話をうかがい知ることができる。特にデザイン画やイメージボードは、それだけで一つの絵画として鑑賞できるはず。
また、富士の裾野にミニチュアの線路を引いて青島を再現し、圧巻の特撮シーンの数々に佛田さんも唸った『青島要塞爆撃命令』(1963)の構想ノートやセット図面なども豊富に展示されている。設計と現場工事も井上氏が担当し、一ヶ月かけて完成させたというオープンミニチュアセット。当時の様子を記録した現場写真も多数並んでおり、その製作過程を想像してみるのも面白い。そして、実際には存在しないものの、自衛隊が所有していそうな絶妙なリアリティがあるのだと佛田さんが評する架空の兵器「メーサー殺獣光線車」の図面の展示も。特撮ファン垂涎の代物だろう。