『自民は公明を“なめている”…選挙協力めぐる“すきま風”の裏側』への皆さんの反応まとめ
「落としどころなんてない、なめているんだ、公明党を」
静かな声で、しかし、険しい表情で話すのは、ある公明党の幹部。
今年7月の参議院選挙に向け、自民党と公明党の協力がうまくいっていないと言う。自公連立政権のパートナーとして20年以上も協力関係を築いてきた両党。その関係に、今、すきま風が吹いている。
■ウィンウィンの選挙戦術「相互推薦」
これまでの参院選で、自民党と公明党はウィンウィンの関係を築くことで勝利を重ねてきた。その肝は「相互推薦」と呼ばれる戦術だ。
【1】まず、改選数が1議席の「1人区」では公明党は候補者を立てず自民党の候補者を推薦。1議席をめぐり自公VS野党という構図を作る。
【2】一方、改選数が3議席以上の埼玉、神奈川、愛知、兵庫、福岡の5つの選挙区では、自民党が公明党の候補者を推薦し、自民党だけでなく公明党の候補者も当選に導くという戦術だ。
ところが、今回の参院選ではその相互推薦について自公の合意がいまだに結べていない。前回2019年7月の参院選では、前の年の12月に選挙協力の方針で合意していたことと比べると明らかに遅い。公明党の幹部によると、「いくら言っても自民党が動かなかった」のだという。そして、業を煮やした公明党側の怒りが爆発する。
■「選挙協力見送り」も…公明の重い判断
1月14日、新年はじめての記者会見。公明党の石井啓一幹事長は「自民党の理解が進んでいないのは大変、残念」と公然と自民党への不満を露わにした。翌15日には公明党のトップ、山口那津男代表が地方組織の幹部とのオンライン会合でさらに踏み込んだ発言を行う。自民党との選挙協力の見送りを検討していると伝えたのだ。取材に、ある公明党の幹部は「これは非常に重い判断だ」と語気を強めた。
それにしてもなぜ、選挙協力に向けた自民党の動きは遅れたのか。
■「自民党は“地方分権”だから」身内の反発
「公明党も、なにもそこまで言わなくてもなぁ…」。
ある自民党幹部はぼやきながら首をかしげた。この幹部は、公明党と自民党は組織の体質が違うのだと強調する。
「うちは“地方分権”型、ボトムアップの組織。トップダウンで物事が決まる公明党と違って、地方組織に対して、上からやれと命令できない」。
公明党との選挙協力を進める自民党本部に対し、“身内”である地方組織から反発が出ていたのだ。
特に強い抵抗を示したのが、自民党・兵庫県連だ。参議院の兵庫選挙区は改選数が3議席。前回2019年の参院選では、1位の日本維新の会、2位の公明党に続き、自民党の候補者は3位とギリギリで当選圏内に滑り込んだのだった。
<2019年参院選兵庫選挙区の結果>
1位 維新 清水貴之氏 57万3427票(当選)
2位 公明 高橋光男氏 50万3790票(当選)
3位 自民 加田裕之氏 46万6161票(当選)
4位 立憲 安田真理氏 43万4846票
5位 共産 金田峰生氏 16万6183票
6位 N国 原博義氏 5万4152票
無論、今年7月の参院選は別の候補者なので単純な比較はできないが、自民党・兵庫県連は、「公明党に推薦を出して、自分たちの候補が落ちたらどうするのか」と危機感を強めていた。
兵庫県連が態度を硬化させた背景には、もう一つの要素がある。それは、2019年の参院選で、安倍晋三総裁(当時)はじめ大物がたびたび兵庫入りしたが、公明党候補の方の応援演説に力点を置いたことだった。当時、自民党候補の優勢が伝えられるなか、連立を組む公明党に配慮してのことだった。しかし、ふたを開けてみれば自民の候補は“3着”。県連内で「それはないだろう」と怒りの声が上がったという。
自民党側には簡単には相互推薦を決められない事情があるのだ。
■公明党が選挙協力を急ぐワケ
一方の公明党の側は、なぜ、相互推薦についての合意を急ぐのか。
公明党の関係者は、それは複合的な理由が重なったためだと説明する。
「最近、目標の票数に届いてないし、コロナの影響で会合もできない。早め早めから準備をしたいのでは」(公明党関係者)
去年の衆院選、公明党は比例代表で800万票を獲得することを目標としたが、結果700万票台と目標には届かなかった。また、支持母体である創価学会の組織力を生かした選挙戦を強味とする公明党にとって、コロナ禍で選挙に向けた会合や集会の開催が難しいことも痛手となっている。公明党としては選挙戦の準備を早く進めたい理由がいくつもあるのだという。
1月19日、公明党の幹部は、取材にこう明らかにした。
「自民党の推薦を待たずに、もううちは選挙協力なしということで走り出してる」(公明党幹部)
自民党との選挙協力抜きの選挙戦を戦うべく全国の組織がすでに動き始めているというのだ。
■「不本意だが…」県連との“手打ち”
同じ日の兵庫県。雨雲が近づくなか、新神戸の駅に降り立ったのは、自民党で選挙を取り仕切る遠藤利明選挙対策委員長だ。公明党との協力を渋る兵庫県連の説得に訪れたのだった。電話一本で済ませることもできたのだろうが、遠藤選対委員長は、足を運んで地元の声に耳を傾け、誠意ある姿勢を見せることが重要だと考えていた。
兵庫県連の藤田孝夫幹事長との会談は、報道陣には非公開で行われた。話がこじれて長引くかとも思われたが、遠藤選対委員長は、小1時間で外へ出てきて、報道陣の取材に応じた。
「地元としてはかなり不本意な部分があるが、最後は党本部の考えに従う」。県連側から、この言葉を引き出したことを明らかにした。その条件として、県連からは、応援演説の弁士や印刷物の手配など、党本部が手厚い支援体制を組むよう要請されたという。
最も難しいと思われていた兵庫県連との“手打ち”を済ませ、遠藤選対委員長の表情には安堵の色が浮かんでいた。「これで党内をまとめて、公明党さんと改めて協議させていただきたい」。自民党としては、2月上旬をメドに、公明党との相互推薦の協定を結びたい考えだ。
遠藤選対委員長が、報道陣にあえて「不本意」という言葉を紹介したのは、兵庫県連の心情を代弁することで、不満を“ガス抜き”する意図もあったのだろう。だが、その「不本意」という言葉が、再び公明党内に波紋を広げている。
■「不本意な推薦」が公明党に波紋
「『不本意ですが』の前置きで、推薦書が取れましたと持って来られても、何の意味もない。(自民党の地元組織が)それで公明党の候補を応援するはずがない。なめているんだ、公明党を」(公明党幹部)
自民党の地元組織が渋々、公明党候補の推薦に応じたとしても、熱心な応援は望めない。
この公明党の幹部は、自民党との相互推薦を見送る方向性は変わっていないと明言した。
ギクシャクした自公の関係は当面続くことになりそうだ。
TBSテレビ政治部 与党担当
揖斐祐介、宮本晴代、内野優