ラケット競技「パデル」授業に 未経験、戸惑いを共有
「下からラケットを出して、タイミングを合わせて打ってみよう」
青山学院中等部(東京都渋谷区)の体育館で6月22日、3年生の生徒ら約20人が、指導に訪れた日本代表の前田直也コーチや高松伸吾総監督らからアドバイスを受け、壁で跳ね返るボールを熱心に追いかけた。
生徒らが取り組んだのは「パデル」というラケット競技。4グループに分かれて球出しを受けた生徒らは、慣れないボールの軌道に悪戦苦闘しながら「あー、しまった」と声を上げ、うまく返球できると満足そうな笑顔を見せた。
パデルはテニスと同様にネットを挟んで相手と得点を競うが、四方の強化ガラスや金網で跳ね返ったボールが空中にある間は返球が可能で、スカッシュとも似た特徴がある。日本パデル協会によると、パデルは1970年代に誕生、世界で愛好家は1800万人以上いるという。特にスペインではサッカーに次ぐ人気ぶりで、世界トップ選手が活躍するテニスをしのぐ。
日本国内では平成28年に同協会が立ち上がり、サッカー漫画「キャプテン翼」の作者、高橋陽一さんが名誉会長を務める。国内の愛好家は2万5千人程度にとどまるものの、首都圏や近畿を中心に専用コートが整備され始め、魅力が浸透しつつある。
この競技に目を付けたのが、青山学院中等部体育科の竹内隆太郎教諭(49)だ。同校ではこれまでも3年生の選択授業で「スポーツ発見」をテーマにラクロスやフェンシング、ボクシングなどを採用。聴覚障害者スポーツのデフサッカーに取り組んだこともある。
「未経験の競技と出合えば、『はじめまして』の緊張感と『どうやるんだろう』と戸惑う経験を積むことができる。普段接する機会のないコーチらと関係を築いていくことも重要だ」
竹内さんは自ら協会に連絡を取り、中学校での授業化が可能かを打診。パデルの魅力発信に取り組む協会側は快諾し、授業内容を考案した。
同校3年の望月里桜(りお)さん(14)は「慣れればラリーが続くようになって、みんなと楽しめた」。尾身帆香(ほのか)さん(15)は「新しいスポーツに挑戦するのは好き。壁を使ってプレーするのは難しかった」とそれぞれ話した。
中学校の授業でパデルを採用する動きは広がり、神戸大学附属中等教育学校(神戸市)では7月に1年生の体育で実施が決まった。ラケットを振るためプレー時に生徒同士の距離を保ちやすく、新型コロナウイルス禍でも実施しやすい利点があったという。
同校の藤本佳昭指導教諭(44)は「男女で体力差があっても一緒に学べる。スポーツは世界共通のコミュニケーションツール。各国で親しまれているパデルを経験し、ルールを知っておくことは財産になる」と話した。