川内倫子の日々 vol.29「時間をつなぐ」
新しくできたそのホテルの部屋に自分の作品を飾ってもらえることになり、家族で宿泊させていただくことになったのだった。
ホテルに泊まることは出張が多い仕事なのでよくあるが、今回のように高級な部屋に泊まる機会は多くはない。娘も部屋に入った途端に綺麗だね!広いね~と喜んでいた。
なにもかもが新しく、部屋の窓からは新宿の街を見下ろせる。
部屋の見学をひとしきりしてから、ネットで検索したホテルの近くの焼鳥屋に向かう。
歌舞伎町を子連れで歩くのは若干緊張したが、夜のはじまりのその街は、本領発揮という感じで勢いが感じられた。人々の発する言語は日本語だけではなく、さまざまな言葉がすれ違いざまに聴こえてくる。歓楽街の賑わいは妖しげな活気に満ちていて、子どもの手を握る力が自然と強くなる。
初めて入った焼鳥屋は換気がしっかりしていて店内は煙もなく、まだ新しい店内はすっきりとした清潔感があり、スタッフは皆笑顔で迎えてくれ、居心地がよかった。家族3人でカウンターに並んで座り、丁寧に焼かれた串焼きをそれぞれに楽しんだ。
まだ外はほんのりと明るく、よく知っていたはずの街は、もう変化をとげていて初めて訪れた異国のようだった。娘と3人というシュチュエーションも相まって、カウンターで肉を食べながら、ジブリの映画「千と千尋の神隠し」を思い出し、別世界の入り口にいるような気分になる。