50年前にモンゴルを訪ねた司馬遼太郎が語る天然ハーブの草原
今回はモンゴルの本来の顔である「草原」について紹介したい。
実を言うと、昨年、モンゴルに入国後、空港から最初に向かったのはウランバートルではなく、そこから70キロ離れた「テレルジ」という奇岩の多い美しい草原のゲルリゾートだった。
テレルジは、現在、国立公園になっていて、国内外の多くの観光客がモンゴルの遊牧民の移動式住居であるゲルに宿泊する。
筆者が泊まったのは、2022年7月にオープンしたばかりの「ビルガーリゾート」という10棟限定のゲルで、なんと各ゲルにシャワーとトイレが併設され、床暖房やWi-Fi環境まで揃っているという最新施設だった。
■大地が香水をふりまいたように薫る
リゾートに到着した頃にはもうすっかり日が暮れていて、別棟のレストランでモンゴルの伝統料理であるホルホグをいただいた。羊肉の塊を野菜や塩、香辛料などと熱した石を一緒に入れて窯焼きする料理である。
凝った調理器具などは必要としない、見るからに素朴な料理だが、大きな骨付き羊肉に食らいつくと、まったく臭みはなく、肉のうまみを感じた。現地の人によると「モンゴルの羊は天然ハーブの草を食べているので、肉が美味しい」とのことだ。
この話を聞いて思い出したのは、司馬遼太郎の『街道をゆく5 モンゴル紀行』である。司馬は南ゴビの草原を訪ねたとき、次のように書いている。
「おどろくべきことは、大地が淡い香水をふりまいたように薫っていることだった。風はなく、天が高く、天の一角にようやく茜がさしはじめた雲が浮かんでいる。その雲まで薫っているのではないかと思えるほどに、匂いが満ちていた」(『街道をゆく5 モンゴル紀行』より)
翌朝、ゲルから出ると、なだらかな丘陵の上にあるリゾートの目の前は、絵に描いたような草原で、まさに司馬遼太郎が書いていたように大地が薫り、高原の植物が咲き乱れていた。
モンゴルの草原は標高1600メートル前後の高原地帯にあり、この時期、草の丈も高く、ナデシコやエーデルワイスなど、さまざまな植物が見られるのだ。そのため、日本からフラワーウォッチングツアーも催行されている。
それから数日間、草原のさまざまな楽しみを経験した。