比企地域のため池農法、三度目の正直で日本農業遺産に 埼玉
比企地域では、丘陵地で形成された谷状の「谷津地形」を生かして多くのため池が作られ、稲作に使われている。ため池は「天水」と呼ぶ雨水だけを水源とし、貴重な生態系も維持されているという。起源は古墳時代にさかのぼるとみられ、長年にわたり地域ぐるみで管理して守り続けてきた農法だ。ただ農家の高齢化で衰退も懸念される。
日本農業遺産と世界農業遺産は、いずれも次世代に受け継ぐべき伝統的な農業や農村文化を保護することが目的。滑川町、東松山市のほか、熊谷市と嵐山、小川、吉見、寄居の4町などは平成29年7月、「比企丘陵農業遺産推進協議会」を立ち上げ、地域に伝わる伝統農法の両農業遺産認定に向け活動を展開してきた。
協議会は30年6月、最初の認定申請を行ったが、1次書類選考を通過できなかった。令和2年7月に行った2回目の申請は、1次書類審査はパスしたもののプレゼンテーションの2次審査会で落選した。協議会の事務局を務める滑川町の担当者によると、国内の他のため池農法との違いがうまく伝えられなかったためだという。
これを踏まえ、4年6月に行った3回目の申請では、現地調査の際に雨水しか使っていないなどの独自性を強くアピールし、今年1月に認定を勝ち取った。国の天然記念物で絶滅危惧種の淡水魚「ミヤコタナゴ」の野生復帰を目指した人工繁殖の取り組みも評価された。ただ世界農業遺産の候補としては、世界の中での独自性について明確な説明が必要だとされた。
滑川町の大塚信一町長は「天水のみを水源とする農業は全国でも稀有(けう)な存在。地域の誇りとし、今後も維持継承に努める」とコメント。世界農業遺産に向けては「日本農業遺産が3回目で認定にこぎつけた。世界はさらにハードルが高い」(協議会関係者)として、内部で丁寧に対応を検討する構えだ。(中村智隆)