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「小さな声の人」描きたい 幻想的短編8編、不思議な読後感 小川洋子さん新作「掌に眠る舞台」
2022-12-09
「小さな声の人」描きたい 幻想的短編8編、不思議な読後感 小川洋子さん新作「掌に眠る舞台」

 兵庫県西宮市在住の作家小川洋子さんの新刊「掌(てのひら)に眠る舞台」は、舞台をテーマにした幻想的な短編8編からなる。自宅の食器すべての底に、名作「ガラスの動物園」のセリフを書いているローラ伯母さんをはじめ、風変わりな「突き抜けた人」が多く登場する。小川さんは「理屈で説明できないことを懸命にやってしまうのが、人間の最も愛すべきところ。小説に書くべき人間の真の姿だと思います」と話す。(網 麻子)


 小川さんは5、6年前からバレエやミュージカル、演劇を熱心に鑑賞するようになった。劇場では時に、みず知らずの2千人が、スマートフォンを切り、飲み食いせず、2、3時間を過ごす。

 「日常ではあり得ない。みんなが空間と時間を共有し、一種の緊張感と楽しさがある。書きたい世界がいろいろあるぞと、予感がしたのです」と小川さん。「閉じられた空間で、観客という生きている人と、舞台上の異界の人物が、ひとときを過ごす場所。小説でこだわってきた『閉じた世界』の究極の形だと、改めて気付いた」と語る。

 楽屋、お飾りの劇場、廃虚の芝居小屋と、さまざまに形を変えた舞台が現れ、静謐(せいひつ)な筆致で物語が紡がれていく。バレエ「ラ・シルフィード」に心を引かれ、主人公の妖精に手紙を書く少女と、「縫い子さん」が心を通わせる。マンションで独居死した「花柄さん」は、公演後、端役にサインをもらうため劇場に通っていた-。

 「何者でもない人の人生の証しを書き残したかったのです。神さまに選ばれなかった圧倒的多数の人の中の、さらに小さな声の人、社会から忘れさられている人を見つけ出す。そんな作業でした」

 執筆中、コロナ禍で舞台が相次いで休演となり、「上演される一回一回が、ある種の奇跡だと思った」。そんな中から生まれたのが、交通事故の保険金で帝国劇場(東京都)の「レ・ミゼラブル」全公演に通う「私」と、劇場で暮らし、本番がうまくいくよう身代わりとして演じ続ける「失敗係」の女性を巡る「ダブルフォルトの予言」だ。

 帝国劇場の舞台裏を取材したときのこと。いろんな人が働き、出演者が神棚を拝んでから楽屋入りする。本番の舞台とは対照的な雑然とした雰囲気に、「舞台が毎回うまく終わるのは、役者の努力、才能以外に誰かの助けがあるのではと神秘的な気持ちになって」と小川さん。「上演できているのは、『失敗係』がいるからではないかと、イメージが膨らんだ」という。

 いずれも読後、不思議な余韻が残り、登場人物のその後をあれこれ想像してしまう。「小説はどこで終わらせるか悩むし、いつもよく分からない。読んだ人の心の中に残り続ける、という意味で、終わりがないものであってほしい、小説の名残がずっと消えずにいてほしいです」と願う。

 今年還暦を迎えた。「あと何作書けるのかな、1冊、2冊かなと考えるようになった。でも26歳から好きな小説を書いてきたのだから、深く考えずにやればいい。近い目標は次の1作です」

 (「掌に眠る舞台」は集英社・1815円)

【おがわ・ようこ】1962年岡山市生まれ。早稲田大卒。「妊娠カレンダー」で芥川賞、「博士の愛した数式」で読売文学賞と本屋大賞、「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞、「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞など。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/828cb8fa2f23ad81620d4b7957baeb8ce424d91c

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