3年ぶりの『ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』が開催。激動の時代におけるアートの意味とは?
会場に一歩足を踏み入れると、作品から放たれる強い存在感とむせ返るような熱気に息を飲む。2020年の建築展がキャンセルとなったため、満を持して3年ぶりの開催となった第59回の『ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』。誰もが待ち望んでいたこの時を出迎えたのは力強い作品の数々だった。
今回のキュレーターはチェチリア・アレマーニ。意外なことに『ヴェネチア・ビエンナーレ』の127年に及ぶ長い歴史の中で、イタリア人女性がキュレーターを務めるのは初めてだという。
現在ニューヨークの〈ハイライン〉にてディレクター兼チーフ・キュレーターを務める彼女が本展に掲げたタイトルは「The Milk of Dreams」。シュルレアリストであり作家でもあったレオノーラ・キャリントンの本から取った言葉で、シュルレアリストたちが自身を自由に変容させるイマジネーションにおけるマジカルな世界を表現したものだ。
アレマーニはタイトル設定に先立ち、数年にわたりアーティストたちとの対話を重ねた。そして、コロナウィルスのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などを抱える激動の時代に、イマジネーションによる変容が強く希求されていることを確信し、タイトルに沿って「身体の表現とその変容」「個人とテクノロジーの関係」「身体と地球との繋がり」の3つのテーマを設けた。
メイン会場の一つ〈アルセナーレ〉で一際目を引いたのが、金獅子賞を受賞したシモン・リーの《Brick House》(2019)だ。顔をあげ、まっすぐ前を見つめる少女に目はない。アフリカ系アメリカ人である作者の背景を考えると、これは男性優位社会や人種差別などの抑圧に対し、それでも静かに抵抗する姿を表現しているように思える。そのほかの展示作品を見ても、ベルキス・アヨンの寓話的な白黒の作品に忍ばせた人々の悪意への眼差し、ポーティア・ズババヘラの作品に見られる、夢を通して表現された精神的なカタルシス……。心に響く作品を挙げていくと、あることに気付く。みな女性アーティストなのだ。