話題のゲーム『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』レビュー。複層的で緩慢な時間の魅力
テクノロジーの発達に伴い、近年の世界的なゲーム動向のメジャーはグラフィックの精緻さや作り込みの膨大さを誇るリッチ方向に向かっているが、その動向にある程度は随伴しつつも、任天堂は砂場遊びや陣取り合戦のような昔からある「遊び」の本来的な面白さ……遊び手が遊びのなかに散りばめられた諸要素を使い込み、その面白さや活用法を自ら発見し、創造し、逸脱していく快感に注力してきた。
本作の工作要素は、2011年公式リリースの『マインクラフト』、あるいは隠れた名作として名高い1999年リリースの『パネキット』などにもつらなり、また部分的には段ボール工作とSwitchのコントローラーを組み合わせて遊ぶ『NINTENDO LABO』を引き継ぐものにも思われ、真に革新的とまでは言い切れない。だが、これらの作品と比較しても、本作における「遊びやすさ」と、そのための没入感と達成感のチューニングは極めて精細だ。
たとえば筆者の経験はこう。
ある大きな迷宮を探索していると、鉄格子がはまって通れない通路が目の前に現れる。鉄格子の先は行き止まりの部屋になっていて、その奥には宝箱がある。通常であれば、どこかに鉄格子を動かすスイッチや開くための鍵を探すというのが定石だが、どうやらそういったものはない。だが、見上げると鉄格子にはちょうど宝箱一個が通りそうな穴が用意されていて「なるほど! 遠くにあるものを動かすこともできる『ウルトラハンド』の機能を使えばいいのか!」という気づきに自然と誘われるような設計が巧い。
しかし、さらにもうひと捻りアイデアがあるのが心にくい。ウルトラハンドでものを動かすことのできる範囲は限定されていて、鉄格子越しでは宝箱に触れることができないのだ! 「正解だと思ったのに……」と少し落胆しながらもあらためて周囲を見回してみると、天井から長いツララが何本も垂れ下がっていることに気づく。「これを棒がわりに使えば、宝箱にも手が届くのでは?」と閃いた筆者は、矢を撃ち込んで落下してきたツララを入手。それをウルトラハンドで操作して宝箱に近づけて接着してみると、大正解! つららと一体化して棒状になった宝箱を操作して、鉄格子から抜き取ることができる。といった具合だ。
このような、システムの拡張性をプレイヤー自身に能動的に発見させ、ある達成を通して「自分すごいじゃん!」と肯定感を与えてくれる設計が任天堂は本当に巧みだ。この延長線上に、上記した「立ち上がって自走する人型」のようなもっと複雑な造作物を自分でも作れるかもしれない、作ってみたい、というモチベーションも生じる。
このような道具、武器、料理といった工作要素がゲームプレイに必然的に埋め込まれた『ティアキン』では、プレイヤーが思考のためにつどつど立ち止まる「緩慢な時間」が流れている。そうやって立ち止まること自体がゲームの面白さにつながるのが、筆者が感じた本作の最大の魅力であり、前作『ブレワイ』との大きな相違点でもある。