本人の家族がキュレーションした、生身のバスキアに出合う大回顧展| 吉田実香のNY通信
ジャン=ミシェル・バスキアの名前から何をイメージするだろう? 27才で夭逝した黒人天才画家。80年代NYの文化アイコン。1988年の急逝後、評価や作品の資産価値は年々高まり続け、今や天文学的な金額と切り離しては語れないアーティストの一人。そんな伝説の人物を、本人の家族の目から紹介するのが『ジャン=ミシェル・バスキア: キング・プレジャー©』展だ。
絵画やドローイング、ゆかりの品々など200点を超す展示品のうち、177点が世界初公開。一世を風靡したナイトクラブ〈パラディアム〉の為に描いた巨大壁画など、貴重な作品の数々はいずれもバスキア家の秘蔵コレクションだ。バスキアの出生証明書や、父親が子供達を映した8ミリフィルム、一時プエルトリコに住んでいた頃の成績表、高校時代に作っていたミニコミといった思い出の品々も、丁寧に展示されている。
本展をプロデュースしたのはバスキアの2人の妹、リセイヌとジャニーンだ。会場に足を踏み入れると、バスキアゆかりのスポットをマークしたNYマップが目に飛び込んでくる。そして「兄やイトコとしてのジャン=ミシェル」を語る妹たちや親戚のフィルムが随所に現れる。作品のキュレーションはもちろん、部屋ごとに流れる音楽のセレクトや解説文も、すべて家族で考えた。神格化された孤高のアーティスト、バスキアを一人の人間として紹介したい。美術館や美術史家が作るバスキア展“ではないバスキア展”、が今回のコンセプトなのである。
総1,400平方メートルもの広い会場には、規模や雰囲気、デザインが異なる空間がいくつも続き、それぞれを細い通路が結んでいる。家族写真や初期作品を眺めながら足を進めていると、まるでバスキア家の中に招かれて思い出やエピソードを聞かせてもらっているような気分になる。その錯覚が最初のピークに達するのが、当時のまま再現した実家のキッチンとリビングだ。壁に並ぶスパイス類と専用ラック、魚料理用のプレートは、実際に当時使っていた現物なのだとか。