土の色で歴史を表現した田根剛の〈スツール 60〉が、〈ドーバース トリート マーケット ギンザ〉で展示中です。
スツールの傑作として知られるアルヴァ・アアルトがデザインした〈アルテック〉の〈スツール 60〉。1933年の発表から90年目を迎える今年、建築家の田根剛が手がける日本限定の特別モデルが4月26日より発売される。それに先駆け、東京銀座の〈ドーバー ストリート マーケット ギンザ〉で田根が構成した、〈スツール 60〉の90周年を記念したインスタレーションが開催中だ。
特別モデルをデザインするにあたって田根が着目したのは、発売以来、同じ工場で途切れることなく生産が続くという〈スツール 60〉の希有な歴史。時の厚みを表現しようと無塗装の脚と座面を土に埋め、土の色で木材を染めるためにアトリエで試作を行った。
〈ドーバー ストリート マーケット ギンザ〉でのインスタレーションでは、脚と座面のジョイント部に一枚のスチールプレートを挟み込むことでスツールを樹木のように重ねた。本来は脚部をずらして重ねることで大量にスタッキングできる〈スツール 60〉だが、脚のラインがきれいに揃った積み重ね方はこれまでにない風景を会場に生み出している。
「3本の脚と1つの座面というシンプルな構成ですが、実は複雑な工程をもつ製品です。アアルトの考えが今日まで持続されていること、そのデザインが長きに渡って産業を支えていること。それは改めてすごい発明だと気づかされました。その尊敬から彼による形を変えず、時間をテーマとしたデザインができないかと考えたのです」
木を構成する木繊維や導管は中空のため、粒子を細かに粉砕した土が材に入り込むことで土の色が木に宿る。田根は土の可能性を探求するブランド〈ミノソイル〉や精土メーカー〈カネ利陶料〉の協力を得て、岐阜や熊本などから6種の陶土を取り寄せ、〈ソルソ〉とともに制作。
黒みがかったグレーやマットな淡い白など、土の特徴を写し取ったスツールはまるで長い年月を経たような色味となった。今回はうち3色が製品化され、田根はそれら特別モデルに《Sleeping Beauty - 眠れる森》と名づけた。