ニューヨーク通信: Photobook Now vol.3
バード・カレッジでスティーブン・ショアから写真を学んだのち、シャネルやマーク・ジェイコブスのキャンペーン、マーク・ローソンやザ・ブラック・キーズのミュージックビデオを手がけたりとファッションと音楽の分野で大活躍のウェンナー。『Homicide』は、2018年から2年半の歳月をかけてニューヨークで最も殺人事件が多発するブルックリン北部地区を統括する刑事の姿を追った一冊である。写真家が初めてニューヨーク市警の仕事現場に踏み入ることを公的に許可されたことからも分かるように、ウェンナーの意気込みが伝わる野心作といえるだろう。緊張感に満ちた事件現場だけでなく、仕事後のリラックスしたプライベートな表情もとらえた写真群は、まるでテレビドラマや映画を見ているかのような印象を受ける。
2020年のジョージ・フロイド事件以後、警察の残虐行為や人種差別が社会問題としてアメリカで取り沙汰される中で、ウェンナーは「犯罪や殺人事件は、西部劇、カーボーイ、野球と並びアメリカの歴史を語るときに欠かせないと思った」ことが制作のきっかけだという。「警察の仕事の正義や勇敢さを褒め称えるのではなく、ドキュメンタリーフォトを通して、個人的な判断を下すことを避け、ありのままの姿をとらえることを目指しました。最終的にどう読み解くかは、読者の判断に委ねています」。これまでの警察にフォーカスした写真集といえば、ウィージー 『Naked City』、ジル・フリードマン『Street Cops』や、ゴードン・パーク『The Atmosphere of Crime』、クリストファー・アンダーソン『Cop』などが挙げられるが、犯罪というアメリカ社会のダークサイドを描いた本書に注目が集まっている。