ジョージ・ナカシマの工房を知っていますか?
ナカシマの工房に“個性”はいりません。しかし…。
午前10時。敷地に点在する工房から一人、また一人と職人の姿が現れる。ジョージ・ナカシマ・ウッドワーカーで唯一の日課、“朝の休憩”の始まりだ。木立の間を散歩する人、プールでひと泳ぎする人、剣道の稽古やヨガ、瞑想にふける人。早朝から制作に打ち込んでいた身体と心を、思い思いのやり方でリフレッシュさせること30分。その後は短い昼食をはさんで現場に戻り、木々に囲まれた景色を前にそれぞれの作業にいそしむのである。
アメリカ木工の父とあがめられるジョージ・ナカシマ。彼が生み出した家具は、20世紀工芸のひとつの頂点として世界的に高い評価を受けてきた。理由は、研ぎ澄まされた美しさや理にかなったフォルムにとどまらない。従来は木材としてハネられる、節やコブなどいわゆる“欠点”を持つ木から究極の美を引き出す、稀有な感性と技術力。ワシントン州の雄大な山々を駆け巡り、豊かな大自然と触れ合った少年時代の体験に根差す、樹木への深い畏敬の念。
木と対話し「木がなりたい形」ヘデザインするナカシマの哲学に魅せられ、自らの手で継承する人々は木工職人8 名と、仕上げ職人2 名の計10名。そのうち親方3 名は30~40年以上勤める、いわば歴史の証人だ。ナカシマの感性と精神は、彼らによって次世代の職人へと確実に受け継がれている。