話し相手を気持ちよくさせる秘術を知る「幻の芸人」が生存していた
東京浅草に、世界に6人しかしない「ヨイショ」のプロがいるという。「幇間(ほうかん)」、通称「タイコモチ」と呼ばれるお座敷芸の達人だ。「ヨ! さすが、旦那! お目が高い!」 プロの会話術にかかれば、どんなに機嫌の悪いカタブツだって思わず胸襟を開いてしまう。現代に生き残った、「座持ち芸のシーラカンス」とは、どんな仕事なのか? ----------
どうも、お初にお目にかかります。
私、東京浅草の松廼家八好(まつのやはちこう)と申します。
私どもの商売は、幇間(ほうかん)、一言でいえば男の芸者でございまして、俗称「太鼓もち」とも申します。
江戸時代中期に吉原で生まれまして、300年余り脈々と続いてきた職業ではありますが、いまではずいぶん少なくなってしまって、その数たった6人。すべて、ここ浅草の花街で働いております。
地方にもちらほらと幇間さんはいらっしゃるんですが、どちらも一代目ということで、江戸の昔から伝統を受け継いでいる正式な幇間というのは、やはり私ども6人だけなんでございます。
こないだ調べたところによりますと、日本で飼育されているパンダの数が13頭。そう、パンダよりも少なくて珍しいのが、私ども幇間という絶滅危惧種なわけです。
ただね、パンダは「白黒」はっきりつけますけれども、私どものお仕事っていうのはグレーゾーンですから……。そんなことだからパンダほどの人気者になれずに、人数も減ってしまったのかもしれませんが……。
男の芸者ですので、お座敷で侍る(はべる)のが仕事です。同じ芸人でも、噺家さん、講談師さんなんかは寄席やホールの舞台の上でお話されるのがお仕事。
一方、幇間というのは、舞台ではなく基本的にはお座敷で旦那さんやら御婦人やらをご接待させていただきます。だから、踊りなどの芸を披露することもいたしますが、あくまでお客さんを接待して喜んでいただくのが商売です。
噺家さんが長くても2時間くらいのあいだに芸を披露する短距離走でしたら、幇間というのは旦那が呼んでくださっている間は、ベターーーーーっと24時間でも走り続ける長距離ランナーみたいなものですね。
江戸の吉原には花魁(おいらん)、芸者、幇間というのがおりました。花魁は身を売るのがお仕事。芸者は芸を売るのがお仕事で、身を売るのはご法度。そうしないと花魁と旦那と取り合って、喧嘩になってしまいますからね。
芸者と一緒に、芸でお座敷を盛り上げるのが私ども幇間というわけでございます。
私がいま勤めております浅草の花街は、吉原のすぐお隣にあります。その伝統もあって、いまも浅草は芸どころとして知られている街です。
とはいえ下町の気風のよさもありますので、お高くとまっているわけではありません。芸はできるが、親しみやすいというのが浅草芸者の魅力。私もそういう魅力のある幇間になりたいと日々、精進している次第であります。