はじめての美術館はどこに行く? 「ミュージアム・マニア」青い日記帳のTakがご案内(渋谷編)
「はじめての美術館」シリーズ第4回目は渋谷・恵比寿エリアの美術館を紹介します。これまで取り上げてきた3つの街、上野、六本木、東京(丸の内・京橋)と違い、多くの人が集う繁華街でありながら、駅からすこし離れると閑静な住宅街や、歴史ある神社などが点在しています。また大学なども多くある文教地区としての側面も持ち合わせたエリアです。
大学によっては博物館や美術館を併設しているところも多くあります。そこで今回は、渋谷駅を基点に隣りの駅まで、普段訪れることの少ない大学の博物館を経由しながら周辺にある美術館を巡るルートをご案内していきたいと思います。
渋谷駅から大学ミュージアムを経由して美術館へ
渋谷という地名が示す通り、宮益坂と道玄坂の交わる「谷底」に駅があるため、非常な複雑な構造をしており、なかなか渋谷駅からお目当ての場所へ出られない難所でもあります。さらにそれに現在進行形の大規模な再開発が拍車をかけており、渋谷駅は周辺を含め目まぐるしい変化の只中にあります。昭和女子大学光葉博物館で田村圭介教授指導のもと「羽化する渋谷―渋谷駅135年の時系列模型から見る2020年」展が開催されたのも記憶に新しいところです。
さて、まずは都会のダンジョンと化した渋谷駅から宮益坂方面へ抜け出し、恵比寿駅を目指してみることにしましょう。渋谷警察署から渋谷区指定有形文化財を受けた美しい社殿や神門を備える金王八幡宮を経由して、実践女子大学香雪記念資料館や國學院大學博物館に立ち寄ります。一般の美術館や博物館にはない独自の魅力があるのが大学ミュージアムの大きな魅力です。無料で鑑賞できますが、開館日を事前にチェックしておきましょう。
日本画の魅力を発信し続ける山種美術館
1966年に日本初の日本画専門美術館として開館した山種美術館
は、日本画をより良い環境で観てもらうべく、照明や展示に注力し2009年に現在の場所に新たな建物とともに移転してきました。コロナ禍のなか、オンラインで絵画を鑑賞できる機会が格段に増えましたが、やはり実物に勝るものはありません。とりわけ繊細な表現が多用されている日本画は実物を前にしないとその魅力を感じることは不可能です。
山種美術館所蔵の岩佐又兵衛《官女観菊図》、竹内栖鳳《班猫》、速水御舟《炎舞》(いずれも重要文化財)といった日本画屈指の名画を最良な空間で存分に堪能するためにあつらえられた極上空間は、初めて日本画の素晴らしさに目覚めたという方も多くいるのも納得です。
自然の顔料を用いている日本画は油彩画と違い、展示可能な期間が限られているため、つねに展示替えとともに年に5~6回の展覧会を開催しています。いつ訪れても質の高い日本画が観られるのは、創立者・山崎種二氏が直接画家と親交を深め支援をしつつコレクションを拡充していったからにほかなりません。
渋谷へ移転してからは、併設された「Cafe
椿」では展示作品をモチーフとした青山の老舗菓匠「菊家」に特別にオーダーした特製和菓子を一度も欠かさずに提供しています。名画の余韻に浸りつつ頂く和菓子は山種美術館ならではの楽しみのひとつです。
>>「Café 1894」から「NEZUCAFÉ」「HARIO CAFE」まで。都内で行くべきミュージアムカフェ・レストラン10選
山種美術館で日本画と和菓子を堪能したあとは、恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美術館を目指しますが、あくまでも余力があるときに限ります。それは東京都写真美術館がつねに3つの展覧会(写真展)と映像を上映しているからです。日本で初めての写真と映像に特化した美術館として開館した東京都写真美術館は、できれば日をあらためて、一日ゆっくりと時間をかけて訪ねたい館です。
日本初の大型複合文化施設・Bunkamura
さて、渋谷駅からもういっぽうの、道玄坂方面へ向かうルートもこれまた個性的な美術館が揃っています。なかでもBunkamura ザ・ミュージアム
は、いまから30年以上も前に日本で初めてとなる大型総合文化施設の一環として誕生した美術館で、現在に至るまで渋谷の文化度をぐんと引き上げた牽引役を担ってきました。
東京都心にありながらアートだけでなく映画、コンサート、演劇がひとつの場所で楽しめる都市型美術館の先駆け的存在なのです。展覧会に関連した映画を上映したり、レストランがコラボメニューを展開するのはBunkamuraがまさに発祥の地となります。
個人的にも、美術館通いを始めたのと時を同じくしてBunkamura
ザ・ミュージアムが開館したこともあり、ここで開催される多種多様な展覧会を通じて、アートの面白さ、奥深さを教えてもらった、まさに恩師のような美術館です。
陶磁器から民藝まで特化型の美術館にも注目
Bunkamuraから徒歩5分ほどの閑静な住宅街の一角に、陶磁器専門の戸栗美術館があります。戸栗美術館の建つ渋谷区松濤は明治時代から鍋島家のお屋敷があった場所であり、陶磁器(焼物)専門美術館の敷地としてはこれ以上うってつけのことはありません。陶磁器のなかでも鍋島焼は最高品質を誇った超一級品でした。
戸栗美術館の創設者・戸栗亨氏は戦後急速に欧米化が進むなか、忘れ去られゆく古民具の蒐集から始まり、昭和40年頃から江戸時代の陶磁器へ軸足を移し日本国内でも屈指の陶磁器専門美術館を設立しました。
いっぽう、「民藝」を発見した柳宗悦が1936年(昭和11年)に駒場にあった自宅近くに開館したのが日本民藝館です。戸栗美術館と日本民藝館
は意外と近くにあり徒歩で20分程度です。途中には東京大学駒場キャンパスもあり東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
駒場博物館と3館セットで巡るルートは、一見地味ながらもほかでは味わえない感動が得られる一押しコースです。
余裕があれば、哲学的な建築家として高い人気を誇る白井晟一設計の渋谷区立松濤美術館へも是非立ち寄ってみてください。
前述した通り、大学ミュージアムは、無料で鑑賞できますが、休館日が一般の美術館とは違うので、開館しているかを事前にチェックしてから出かけましょう。
ウェブ版「美術手帖」では全国の美術館・展覧会情報
を知ることができます。エリア検索で「すべてのエリア」→「『東京』→『渋谷・表参道』または『恵比寿・六本木』」で絞り込み、興味のある展示がないか探してみましょう。すこしでも琴線に触れそうな展覧会があったら、重い腰をあげて美術館へ出かけてみましょう。