現代美術界の巨匠、李禹煥の大規模回顧展が開催中。
東京・六本木の〈国立新美術館〉で、現代美術家・李禹煥(リ・ウファン、1936~)の大規模回顧展『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』が行われている。
芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかける作風で知られる李は、近年、〈ボン市立美術館〉(ドイツ、2001年)、〈ベルギー王立美術館〉(ベルギー、2008年)、グッゲンハイム美術館(アメリカ、2011年)、〈ヴェルサイユ宮殿〉(フランス、2014年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催。今年4月には、フランス南東部のアルルに、安藤忠雄が改修を協力した〈李禹煥アルル(Lee Ufan Arles)〉がオープンし、その動向にさらなる注目が集まっている。
李は韓国の慶尚南道に生まれ、ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日。日本大学で哲学を専攻し、東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収した。1960年代に入ると現代美術に関心を深め、60年代後半に本格的に制作を開始。視覚の不確かさを乗り越えるために、自然や人工の素材をほぼ未加工のまま組み合わせ提示することで、「もの」との関係を模索する「もの派」と呼ばれる運動を牽引した。
なお、李は芸術作品だけでなく、著述を通して「もの派」を理論的に主導。1969年の論考『事物から存在へ』は、美術出版社芸術評論に入選。そして1971年刊行の『出会いを求めて』は、「もの派」の理論を支える重要文献とされている。
そんな李の大規模個展は2005年に〈横浜美術館〉で開催されているが、東京では今回の『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』が初の開催。同展では「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う初期作品から、1968年頃から制作された、石や鉄、ガラスが相関する〈関係項〉シリーズ、時間の経過を表現した絵画作品まで、李の代表作の数々を展示している。