入試シーズン、SNSで「問題解いて」は要注意 知らずに不正加担恐れも
大学入学共通テストをはじめとした入試シーズンの本格化を前に、文部科学省が大学生や予備校講師らに向けカンニングに関与しないよう呼びかけている。昨年の共通テストの問題流出事件では、学生が不正行為と知らずに問題を解いて加担していたことが判明。SNS全盛の今、善意から犯罪に巻き込まれる恐れもあり、安易な解答作成には注意が必要だ。
■予備校講師らにも注意喚起
「試験期間中、オンラインで解答を依頼される」「問題の画像が送付され、解答を求められる」。文科省は昨年12月、大学生らに向けた呼びかけの中で、「特に注意が必要な例」としてこうしたシーンを挙げた。不正行為と知りながら協力した場合は「刑事罰を科される可能性がある」。共通テストなど今後予定される主な入試日程を示し、注意を促した。
念頭にあるのは昨年の問題流出事件だ。昨年1月15日の共通テストの試験中、世界史Bの問題の画像が家庭教師マッチングサイトに登録する学生たちに送信された。警視庁は出頭して関与を認めた受験生の女と、画像の中継役を担った男を偽計業務妨害容疑で書類送検した。
女は令和3年12月、女子高校生を名乗り複数の家庭教師マッチングサイトに登録。家庭教師としての力を試す「テスト」と偽り、カンニングの目的を伏せて解答を依頼していたとみられる。大阪家裁は昨年9月、女を2年間の保護観察処分とした。
こうした手口を踏まえ文科省は学生だけでなく、予備校講師も巻き込まれる恐れがあると判断。予備校にも同様の呼びかけを行った。
■物理的対策には限界も
そもそものカンニング防止策も強化されている。大学入試センターは昨年6月、試験監督による巡視回数を増やしたり、スマホを試験前に机の上に出させて一斉に電源を切り、かばんにしまう対応に改めたりする対策を取りまとめた。ただ共通テストの出願者数は50万人以上。例年600以上の会場に約1万の試験室が設けられる大規模な行事でもあり、物理的対策には限界があるのも事実だ。
事件を受け、外部との通信を遮断する装置を設けるべきとの声もあったが、予算や設営の問題もある。また受験生のスマホ持ち込みを全面的に禁じる手段もあるが、生活必需品との側面もあり現実的には難しい。
入試制度に詳しい桜美林大の田中義郎教授(教育学)は、対策の強化で新たに不正と判断される行為が増えたとして「会場の監督者や高校の教師が注意を促す必要がある」。一方で過敏になるあまり、受験生のストレスが高まるとの懸念も残る。田中氏は、公正公平な環境の模索には限界があるとして「大規模試験の方法や運営について近く抜本的な見直しや改善が必要なのではないか」と話した。
■試験日は痴漢にも注意を
一方、試験会場へ向かう際に電車を利用する受験生の痴漢被害防止に向けた動きが広がっている。入試当日の受験生は遅刻を恐れて、痴漢被害に遭っても通報しないなどとして近年、SNS上では試験日を「絶好の痴漢日和」「痴漢チャンスデー」などと犯行をあおる投稿が散見されるためだ。
警視庁では、試験日の痴漢被害から受験生を守るため痴漢防止キャンペーンを初めて実施。11日~15日までは主要駅で制服警察官の巡回などを強化する。
また、関西でも鉄道各社が独自に対策を強化。大阪メトロは試験日について、大阪府警鉄道警察隊と連携し、新大阪駅や梅田駅などで「特別巡視」を実施する。阪神電鉄や阪急電鉄でも、駅係員らの巡視に加え、痴漢行為をみかけた際は、受験生に代わって周囲の人が駅係員らに伝えるように求める放送を駅構内などで流すとしている。
一般社団法人「痴漢抑止活動センター」(大阪市)の松永弥生代表理事(57)は「被害抑止のためにも、痴漢行為を目撃したら必ず駅員に伝えてほしい」と訴えている。(前原彩希、木下未希、土屋宏剛)