美村里江のミゴコロ 花火とピンクの発光体
埼玉県深谷市育ちの私にとって最も身近だったのは、お隣、熊谷市の花火である。叔母が住んでいたので、夕方前にそこに集合して持っていく料理などを手伝い、皆で近所の見通しのいい丘へ行くのが恒例となっていた。
叔父が畑で作った新じゃがやトウモロコシ、お握りなど簡単なものだが、夏の夜にピクニックというのはそれだけで楽しい。
「おー始まった!」
最初の花火こそ皆で歓声を上げるが、大人はお酒も入って、いとこ同士の会話などで盛り上がると、花火は次第に添え物となっていく。
そんな中盤、いとこが「あれなんだろう」と夜空を指さした。花火を撮影しようと2機のヘリコプターが規則正しく明滅していたが、そこから少し離れた場所にショッキングピンクのライトを放つ飛行物体があった。
「変な色」「点滅してないね」
皆、一瞬興味を持ったが、酔った叔父が上機嫌に「UFOだ! きっと花火が物珍しくてちょっと見に来たんだろ」と笑い、それで皆も「そっか」と笑って、また会食に戻った。
しかし、酔っていない私は見た。ピンクの光がピカピカと何度か明滅した後、シャッシャッと直線的に素早く三角形を描くように移動。ピュッと消えたのである。
成人後、この話を友人にしたところ「噓だあ」と大笑いされ、全く信じてもらえなかった。折しも隅田川の花火大会の日、遠巻きに見える位置を散歩中。
「いや、本当に親族皆で見たんだよ、ちょうどあれくらいの位置に…」と指さした方角、撮影ヘリの群れから少し離れた夜空に「パッ」とピンクの明かりが現れた。
「え…」と友人が固まる中、ピンクの発光体は明滅し、何度か直線的に移動。そしてピュッと消えた。まるであの夜の再現だった。
数十秒前まで噓つき呼ばわりされた私は、「見た?」と喜々として友人を振り返ったが、彼女は顔面蒼白(そうはく)。一人になるのが怖いと、わが家へ2日間泊まっていった。
「未確認飛行物体」の謎はそのままだが、もう一度見てみたいと毎夏思っている。