減り続けるまちの本屋さんに新風 各地に広がるシェア型書店とは
◇オーナーになるための“空き待ち”
福岡県糸島市に2021年9月にオープンした「糸島の顔がみえる本屋さん」(通称・糸かお)は、JR筑前前原(まえばる)駅から徒歩5分ほどの商店街の一角にある。店内に入ってすぐ目に入るのが壁一面を覆う木製の大きな書棚だ。30センチ四方に区切られた100枠のそれぞれに書棚を借りて出店した「オーナー」がいる。
オーナーは大学生から70代の年配者までさまざまで、それぞれがお薦めの本などを持ち込み、棚に並べている。絵本やビジネス書などテーマを絞った棚もあれば、小説から旅や料理などの趣味の本、専門書などが入り交じった棚もある。
書店を開設した元物流会社社長で経営コンサルタントの中村真紀(まき)さん(57)と、元大手商社社員で古民家を改修した学生寮などを糸島で運営する大堂(おおどう)良太さん(39)は、共に東京からの移住者だ。移住するに当たり「地元の人と交流する場を持ちたい」と考えていた中村さんが、東京都武蔵野市吉祥寺にあるシェア型書店の先駆けの「ブックマンション」を訪れ心を動かされた。商店街で空き物件が見つかり、移住の先輩である大堂さんに相談。クラウドファンディング(CF)で資金とオーナー希望者を募り開店にこぎ着けた。
オーナーになるには入会金のほか、1カ月当たり1500~2000円の会費を払い、月1回程度の店番をするのが基本条件。1冊当たりの販売手数料は50円で、価格設定は自由だ。「店番の日以外もオーナーたちがやって来て、自主的にイベントを開いたり交流したりしてくれる」と中村さん。現在はオーナーになるための空き待ちという人気ぶりだ。
◇最年少は18歳
山口県内に住まいがある関東学院大経済学部教授の伊藤明己(はるき)さん(53)は21年10月、山口市の中心商店街にある県などの創業支援施設内に「HONYAらDO(ほんやらどう)」をオープンした。空き店舗が点在する商店街に「ふらっと立ち寄れる場所を」と思い付いた。
約8平方メートルに30棚があり、店番をする「棚主」は登録料のほか、月2000~3000円の棚代を払う。職業は詩人や大学教授、タクシー運転手らさまざまで、北欧文化や哲学、料理など各棚からも個性が見えてくる。最年少の棚主で図書館司書を目指す高校3年の藤田彩花さん(18)は主に小説を置き「店番でお客さんと話したり、交流会で他の棚主さんの話が聞けたりするのも魅力」と話す。
創業支援施設内に出店できるのは2年間に限られる。伊藤さんはこの間に軌道に乗せて独立したシェア型書店を構え、「商店街のシャッターを一つ開けるのが目標」と意気込む。
◇本屋が人と人をつなぐ場所に
飲食店内の一角にもシェア型書店が登場した。福岡市中央区清川のカフェバー「清川SALON(サロン)」内に21年12月オープンした「Book-R(ブックアール)清川店」の書棚は24区画。レストラン経営者の長谷川忍さん(41)が店内改装の際に、北九州市小倉北区で19年から1区画ずつ貸す古書店(現ブックアール)を経営する旧知の山路弘大(こうた)さん(40)に相談し開設した。長谷川さんは「子連れで来られて大人が楽しめる空間、交流する場という店のコンセプトにも合っている」と満足そうだ。
福岡市早良区の主婦、畑中直子さん(45)は「糸かお」と「ブックアール清川店」の2店の書棚の店主だ。2人の小学生の母親でもある畑中さんは、家にある絵本を生かして専門店を開きたいと考えていた時に「糸かお」開業を知った。「もうかることはないけれど、つながりがいろいろできる」。店番などで「糸かお」を訪れる際に近隣の商店主らと話すのも楽しみにしている。
全国の書店数は20年5月時点で約1万1000店と、20年間でほぼ半減した(アルメディア・文化通信社調べ)。吉祥寺のブックマンションを19年に開業した中西功(こう)さん(43)によると、直接ノウハウを教えた約20店を含め、シェア型書店は現在全国に40店近くまで増えた。まちの書店の相次ぐ廃業に心を痛めていた中西さんは「こういうやり方もあるんじゃないかと始めたが、本屋が人と人をつなぐ場所になり、最近はコミュニティー本屋などと言われるようになった」と語る。【谷由美子】