【原田マハ×伊藤ハンス】物語のある服を生み出すクリエーションの原動力とは
この秋に設立5周年を迎える「エコール・ド・キュリオジテ」は、服好きの人たちの間で支持が広がっているブランドだ。原田氏がシーズンごとにオリジナルの掌編小説を創作し、その物語の世界観を伊藤氏がデザインで表現するという独特のスタイルを貫いている。このたび原田氏が原作・脚本を手掛ける舞台『リボルバー』の衣装制作を担当するために、拠点とするパリから伊藤氏が来日し、原田氏と二人でのインタビューが実現した。
―― 小説『リボルバー』はゴッホとゴーギャン、二人のアーティストのヒリヒリするような感情や創作活動に自らを捧げる生き方を追体験できる、とても刺激的な作品でした。原作の世界から舞台へ転換する見どころをお聞かせください。
原田マハ(以下、原田) もともと舞台芸術に強い興味を抱いていたところにPARCO劇場さんから「戯曲に挑戦してみませんか?」とお話があったんです。戯曲の執筆は初めてなので、「まず原作を書かせてください。小説から戯曲を立ち上げる作業をやってみたい」とお願いし、実に4年くらいかかった作品なんです。
演劇は演出、キャスト、舞台美術など多様なクリエーションが関わって観客に提供する形ですが、私は美術館のキュレーターの経験があり、たくさんのクリエイターの方々とコラボレートしていくことが非常に舞台制作の作業に似ていると感じます。演出は、私自身も大ファンで数々の作品を拝見していた行定勲さん、そしてキャスト陣も非常に優れた技術を持った方々ばかりなので、全く新しいゴッホ像が作れるのではないかと確信しています。コスチュームデザインを担当する伊藤ハンスは19世紀末のフランスのカルチャーへの造詣が深く、総合的に見て非常に面白い作品に仕上がっていると思いますね。
―― 19世紀が舞台となる今回のコスチュームの制作過程で苦労したことは?
伊藤ハンス(以下、伊藤) コロナ禍でスタッフの皆さんと距離や時差など物理的な壁を超えて、遠隔で打ち合わせを重ねてきました。ラッキーだったのは、マハさんが以前書かれた『たゆたえども沈まず』というゴッホと弟のテオが登場する小説のための、彼らの足跡をたどる取材に同行していたことが非常に大きなエレメントになって返ってきたことですね。
また、19世紀末の人々が着ていた服に非常に興味があり、当時の古着や布の切れ端なんかをずっと集めていて。修復家の友人や蚤の市でものを扱っている人との交流からいろいろなことを学び、自分の中で蓄積され、それをマハさんの戯曲とシンクロさせていくというプロセスを経ました。また、行定さんの斬新で緻密な演出プランに沿えるようにボタンひとつにも一緒になってディテールにこだわりました。まるで1シーズン分のコレクションを作るような経験でしたね。