よりディープに、2020年代から1980年代の東京へタイムスリップ。
師匠であった森山大道や深瀬昌久といえば、人物に寄ったハイコントラストな作風だ。
「当時、リー・フリードランダーの作品の、被写体との距離感に影響を受けていたので、師匠たちの被写体へ迫るスナップショットとはずいぶん異なりました。荒木経惟さんが《ペンタックス67》で撮っていた作品にも影響されていましたね」
実際に、写真集に収録された作品の大半は中判カメラ《ペンタックス67》の6×7フォーマットで撮影。それにより、用紙のムダが出にくく、写真集としては手頃な価格に抑えることができたという。
「写真は撮ったときの思いもあるけど、人の手に渡ってからは見てくれる人たちの間でつながっていきます。コロナ禍で実家に帰れない若者が、前作を2冊買って1冊を両親に送り、電話で昔の東京の話をしたそうです。昔の東京を知らない海外のカルチャー好きな若者も、アニメや怪獣映画に描かれた1980年代の東京の、リアルな写真に興味を持ってくれています」
過去の東京へ“タイムスリップ”する写真集を2冊、立て続けにつくったことで見えてきたことはあるだろうか?
「最初は変わってしまったものに目が行きましたが、今は変わらないものに惹かれています。とは言っても、昔の景観を残してほしいというわけではなく、街が移り変わるということを見て楽しんでもらえればと思います。その国のカルチャーは、街並みの変化に表れるものですから。できることならば、このシリーズを上製本にして『PARIS PHOTO(パリ・フォト)』に出展してみたいですね」