「演劇界におけるハラスメント撲滅の権威」がセクハラ。依頼人女性が弁護士を提訴
提訴されたのは、演劇や映画など表現の現場におけるハラスメント撲滅に取り組んできた馬奈木厳太郎弁護士。同氏はコロナ禍における表現への公的支援を求める運動「WeNeedCulture」にも関与しており、数々のハラスメント講習の講師も務めてきた人物だ。演劇界におけるハラスメント撲滅の権威として活動してきた。
今回訴訟を起こした女性は、これまで舞台俳優として活動する傍らで演劇界における自らのセクハラ被害を公表し、「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」(なくす会)を設立するなど、セクハラ・パワハラの撲滅に取り組んできた。馬奈木弁護士はこの女性が過去に受けたセクハラ被害について代理弁護士として関わり、「なくす会」では顧問弁護士という立場だった。
訴状によると、原告は馬奈木弁護士が代理人となった2021年9月頃から観劇や食事に誘われ、22年1月までの期間、継続的に身体への接触をはじめとするセクシャルハラスメントを受けていたという。「頻繁で強引な誘いを強く拒否しにくい状況」に置かれ、意思に反した性行為を行うことになるなど、精神的な苦痛を受けたと主張している。依頼者と代理人弁護士という関係性が利用されたかたちだ。
こうしたなか、女性は22年2月に馬奈木弁護士に対しうつ傾向が強いことを伝え、2人で会うことを拒否したものの、馬奈木弁護士は受任事件への悪影響に言及しながら原告を追い込んだという。原告はその後、馬奈木弁護士を訴訟代理人から解任している。
馬奈木弁護士は3月1日付で自身のウェブサイトを更新し、「ご報告と謝罪」と題した文書を公開。既婚者でありながら女性に好意を抱き、女性も自分に対して好意を寄せていると思い込んでいた、としたうえで、「私のこれらの行為は、私自身の認知の歪みや、自らの言葉の『暴力』性に対する無自覚によるもの」であり、「卑劣な、人として許されない行為」だと反省の弁を述べている。また馬奈木弁護士は今後、ハラスメント講習の講師などの活動を一切行わないことを明記している。
いっぽう原告は3月3日に会見を実施。弁護団は本件を馬奈木弁護士の権威性や上下関係を背景にした「典型的なエントラップメント型ハラスメント」と位置づけており、「弁護士が依頼者と性行為をすることはあり得ない。弁護士を頼る人を裏切る行為だ」と強調している。
また原告女性は馬奈木弁護士について「生涯弁護士として活動しないことを求める。司法のもとで正しい判決が出て初めて、前向きに生きていける」と訴えた。