<棋士の横顔・青野照市九段>臨死体験からよみがえった現役最年長棋士「あの時は毎晩、お迎えが来た」
血圧低下の問題を抱え、体調が万全でなかった2019年の暮れ、竜王戦6組で新人棋士の渡辺和史四段(当時)と対戦し、活きのいい若手相手に難解な終盤で読み勝った青野九段は白星を手にしました。ところが、感想戦を終えた午後10時半過ぎ、対局室を出ようとした青野九段は倒れてしまいました。記者が抱えて下のフロアのベンチに向かい、「救急車を呼びますか」と尋ねるも、「30分くらいで治るから大丈夫」と応じ、実際に30分後に立ち上がり、帰宅しました。
その後、順位戦など持ち時間の長い対局を強行した青野九段ですが、2週間ほど、「臨死体験」をすることになったそうです。眠っていると深夜、毎日のように意識が遠のき、幽体離脱のような状態になって、「お迎えが来たか」と観念することもありました。約2週間でその不思議な状態は収まり、3年を経た現在は健康を取り戻した青野九段。竜王戦のような持ち時間5時間の長丁場で、真剣に考え抜くことは「命を削ることになる」と悟ったそうです。
「体が大事だから、今はほどほどに考えている」という青野九段。臨死体験を乗り越えたからこそ、本局で現役最年長棋士として立会人を務め、弟子の八代弥七段と和気あいあいと対局を検討しています。藤井竜王と広瀬八段が盤上没我するモニターを横目に、青野九段は「しぶとさが取り柄かな。最年長であることに誇りを持っています」とにこやかに語りました。(吉田祐也)