『紙の銀行通帳「1100円」時代、なぜそんなに高いのか 紙は持たない方がいい?』へのユーザーの意見まとめ
牧野さん「メガバンクをはじめとする銀行では、事業コスト削減の一環として店舗の統廃合を進めており、店舗利用者をネットに移行させるための施策として、紙面通帳の有料化を進めています。銀行は調達金利と貸出金利の差分で利益を得ていますが、低金利時代に突入してから長らくの間、利益の源泉である金利の差分が圧迫され、事業環境は厳しくなっています。
紙面の通帳から電子通帳への移行を進めることで、店舗統廃合による賃料の削減、店舗人員の削減、そして、1口座あたり年間200円、銀行が負担していた印紙税も削減できます。つまり、銀行は事業環境悪化への対策として、コストのかかる紙面通帳から、電子通帳を利用するよう促しているのです」
Q.費用がかかっているとしても、1100円は高い感じもします。三井住友のような例外もありますが、なぜ、横並びなのでしょうか。
牧野さん「銀行をはじめとする金融機関では、ほとんどのことを業界横並びで始める慣習があります。銀行の紙面通帳の有料化、証券会社の口座管理手数料など、お客さま負担を要する施策の多くは業界全体で始める傾向があります。また、1100円という金額についてですが、金融業界出身者としては、むしろ安いとすら感じます。
先述したように、店舗にかかる費用や事務的な負担を考慮すれば、倍以上の金額を設定してもよいはずだからです。実際に銀行では、紙面通帳の有料化以外にも、口座管理手数料や口座未使用料などを続々と設けており、アクティブユーザー以外の口座廃止に積極的なことが分かります。
低金利時代が終わり、銀行の事業環境が改善されない限りは、今後もさまざまな手数料負担が発生していくことが予想されます」
Q.紙の通帳の有料化によって、顧客がほかの銀行に流れるという心配はしないのでしょうか。
牧野さん「一概には言えませんが、規模の大きな銀行であればあるほど、紙面通帳の有料化による顧客流出は心配していないでしょう。理由は2点考えられます。1つ目は、仮に顧客が流出して、その分、収入が低下したとしても、紙面通帳有料化によって削減できる費用の方が大きいからです。低金利や人口減などの外部環境が悪化している中で、内部環境に目を向けて対策し始めている段階といえます。
2つ目は、銀行各行が成長戦略としてデジタル化を掲げている点です。決算資料や経営戦略資料を確認すると一目瞭然ですが、DI/DX(デジタルイノベーションとデジタルトランスフォーメーション)推進を全社戦略として掲げている銀行がほとんどです。キャッシュレス決済、アプリ取引など、銀行が推し進めている施策を普及させるためには、電子通帳の普及が必要不可欠なのです。
銀行全体の課題である、利益率の改善とDI/DXの推進を達成させるためには、紙面通帳のみを愛用する顧客にフォーカスできる状況ではないと解釈できます」
Q.IT化は時の流れですが、子どもたちには、紙の通帳があった方が金銭感覚を育てるのに役立つような気がします。そうした視点は銀行側にはないのでしょうか。
牧野さん「銀行をはじめとする金融業界では、確かに、子どもたちへの金融教育を積極的に行っています。しかし、紙の通帳を通して金融教育を実施していく意向がないことは、次の2つの理由から分かると思います。1つ目は、銀行が行っている金融教育のほとんどは金融講座の提供やセミナーによるマネーリテラシーの向上であり、紙面通帳を利用する機会がほとんどないことです。
2つ目は、銀行の子ども口座開設ページにおいて、ウェブ通帳の開設を促している点です。銀行がコストより子どもの金銭感覚形成を重視しており、かつ、その達成方法が紙面通帳を利用しないといけないと考えているのであれば、子ども口座開設ページにウェブ通帳開設を促進させる文言は記載しないでしょう」
Q.紙の通帳有料化の流れの中で、損をしない選択は。
牧野さん「やはり、取引機会の多い銀行口座のみを保有すること、および、メインバンク以外は紙面通帳を発行しないことです。普段使用していないものから手数料を徴収されると、損をしたと感じると思います。そのため、取引機会の多い銀行口座のみを保有することで、『未利用口座管理手数料』を徴収されずに済みます。
また、『いくらコストがかかるとはいえ、紙面の通帳を一冊も持たないのは不安』という人は、持つとしても1冊に限定するとよいでしょう。取引機会の多いメインバンクだけでよいはずです。そうすれば、紙面通帳の発行手数料を抑えることができます」オトナンサー編集部