衝撃の「初手反則負け」千田翔太七段、すでに気持ち切り替え27日に羽生善治九段戦
12月22日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われた将棋順位戦B級1組の対局で「後手番」なのに「初手」を指して反則負けを喫した千田七段。1手も指すことなく敗れるという衝撃的な反則は、珍しさもあって話題となり、千田七段には様々な反響、激励の声が寄せられたというが、対局から2日後、「もう反則負けのダメージは癒えました」と、いつも通りのハキハキとした口調で明かした。どうやって気持ちを切り替えたのだろうか。
今回の「初手反則負け」が、棋士や将棋ファンに大きな驚きを与えたのは、千田七段の棋歴や几帳面な性格が知られていることにもあった。現在、28歳の千田七段は将棋界の若手実力者として知られ、タイトル戦は棋王戦で挑戦1回、全棋士参加棋戦では朝日杯将棋オープン戦で優勝経験がある。また、将棋AIを普段の研究にいち早く取り入れ、パソコンを片手に、プロ入り直後の藤井聡太竜王に自身のAI活用法を披露したこともある。トップクラスの力を持ち、理論派の棋士でもあったがゆえに、「まさか千田七段が」と、多くの棋士や将棋ファンが反応し、その意外性も相まってニュースが広まっていった。
反則負けをしてしまった当日の午前10時半頃、将棋会館を去る直前に千田七段は「会えるようだったら今日、師匠のところに行きます」と記者に告げた。彼の師匠である森信雄七段は兵庫県在住だ。千田七段は東京から向かおうとした。帰宅して、まず師匠に電話を入れたものの、すれ違いになった。関西に行くのを思いとどまると、昼過ぎに師匠から電話があり、手番を勘違いしての反則負けについて、温かい言葉をかけてもらったそうだ。「日を改めて来年、師匠に会いに行きます」と千田七段は語った。
義理人情を重んじる千田七段らしい行動だ。記録係に反則を指摘された直後、対戦相手の近藤誠也七段に対して、「対局を成立させられず、申し訳ない」という思いに駆られた。すぐに、隣で対局していた兄弟子の山崎隆之八段を見やって「動揺させてしまって、すみません」という心境になったという。そして、師匠の顔が浮かんだそうだ。