今井俊介、東京の美術館で初の個展。「スカートと風景」で入り込む色の世界
アートギャラリーに巡回し、幕を開けた(4月15日~6月18日)。企画担当は同館キュレーター・瀧上華。
今井は1978年福井県生まれ。2004年に武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了し、以降、「第8回shiseido art egg
今井俊介 range finder」 (資生堂ギャラリー、2014)や「float」 (HAGIWARA PROJECTS、2017)、「range
finder」 (Kunstverein Grafschaft
Bentheim、2018)などの個展を開催。またグループ展としては本展と同じ会場で14年に開催された 「絵画の在りか」のほか、 「絵画の現在」(
府中市美術館、2018)などに参加している。
今井の作品の大きな特徴は、なんといってもその色面だ。ときに迷彩模様を思わせる画面を構成するのは、様々な色のストライプや水玉など。これらがときに歪みや波打を伴いながら、複雑に組み合わせられている。
こうした作風が生まれたのは2011年のこと。それまでポルノ写真をもとに、その表層をなぞるような作品を描いていた今井だが、制作に行き詰まっていたという(
今井俊介インタビュー
参照)。そんなとき、何気なく目にした知人の揺れるスカートの模様や、量販店に積み上げられたファストファッションのフリースの色彩が今井の心を強く打ち、現在の作風とへつながっている。
本展では、丸亀で開催された個展を東京オペラシティ
アートギャラリーの会場にあわせて再構成。ストライプの絵画に至る過程ともいえる7つの初期作品を新たに加え、2023年の新作までが並ぶ。
会場に入ると、まずその展示室の明るさに驚かされる。通常、絵画の展覧会では作品保護のため照度を落とすが、今回は今井の希望でその照度が極めて高く設定されている。それゆえ作品が持つ色彩はより強い輝きを放ち、鑑賞者の目を撹乱させる。今井は「色は光であってほしい」と話す。今井がかつて受けたという、「フリースのディスプレイの色彩に飲み込まれる感覚」も、擬似的に体験できるかもしれない。
展示は時系列ではなく、様々な年代のものが混在している。現在の作風に至る前、あるいは現在の作風の原点とも言える作品が展示の途中に置かれることで、時間を超えた作品同士の関係性を見出すこともできるだろう。
瀧上は今井について、「絵画というものを継続して探究している作家」と評する。「それがキャンバスにとどまらず、映像やインスタレーション、そしてファッションブランドとのコラボレーションまで広がっている」。美術史を参照しながら、領域を軽やかに横断していく姿勢が今井の大きな持ち味だ。
今井の作品は一見、抽象絵画のように見えるかもしれない。しかし今井は、パソコン上で矩形や円を組み合わせたグラフィックを形成した図柄をプリントアウトし、歪ませたものを描くという制作プロセスをとる(本展ではそうした制作に使用される素材も展示されている)。そこからわかるのは、今井が描くのはあくまで自分の目で見たもの、つまり、「具象絵画」であるということだ。そしてその作品には「様々なフックがある」(瀧上)。
今井がスカートから着想を得て約10年。生み出されてきた数々の平面に、あなたはどのような風景を見出すだろうか。