【インテリアブランド名鑑】北欧デザインの傑作を発表し続ける〈フリッツ・ハンセン〉の現在。
デンマークの〈フリッツ・ハンセン〉は、アルネ・ヤコブセンやポール・ケアホルムの家具をはじめ北欧デザインの傑作を取り揃える。さらに、それらと並ぶ新しいマスターピースの創造にも取り組み、次の流れを作り出そうとしている。
〈フリッツ・ハンセン〉は、キャビネット職人のフリッツ・ハンセンが1872年にデンマークで創業。当時の北欧家具は木工職人の手作りが主流であり、このブランドのルーツもそこにある。しかし20世紀に入ってからは、フリッツの息子のクリスチャンが曲木、成形合板、金属加工といった工業的な家具作りにも可能性を見出していく。たとえば1930年代、デンマーク初のスチール家具は〈フリッツ・ハンセン〉が発表した。
また当時からコーア・クリント、ハンス・J・ウェグナー、ボーエ・モーエンセンはじめ気鋭のデザイナーとも協業している。20世紀半ばから建築家のアルネ・ヤコブセンとともに生み出した名作椅子の数々も、こうした系譜に位置づけられる。
1953年発表のヤコブセンの代表作《アリンコチェア》は、3次元成形した1枚の成形合板によって座面と背もたれを一体化した世界初の椅子とされる。これは当時としては、アメリカのイームズ夫妻が試みながら実現できなかったほど難易度の高い技術だった。2年後に完成した《セブンチェア》も構造は同様だが、曲面のシートはより広くダイナミックになり、座り心地を向上させている。
その後もヤコブセンは、コペンハーゲンの〈SASロイヤルホテル〉やイギリス・オックスフォードの〈セント・キャサリンズ・カレッジ〉など、彼が設計した建物のために椅子をデザインし、制作を〈フリッツ・ハンセン〉が行うのが通例だった。一連の家具は、デンマークデザインの黄金時代においてもひときわ革新的なものとして世界に広まっていった。