杉本博司による「本歌取り論」の展開。姫路市立美術館で「杉本博司 本歌取り―日本文化の伝承と飛翔」開催
「本歌取り論」とは、杉本は自身の作家活動の原点とも言える写真技法を和歌の伝統技法である「本歌取り」と比較したもの。杉本は「日本文化の伝統は旧世代の時代精神を本歌取りすること、つまり古い時代の感性や精神を受け継ぎつつ、そこに新たな感性を加えることで育まれてきたものであろう」「日本だけでなく世界中の文化に本歌を求め、自身の創作においても本歌取りを試みたい」としている。
「杉本博司
本歌取り―日本文化の伝承と飛翔」と題された本展では、時間の性質や人間の知覚、意識の起源といった杉本が長年追求してきたテーマを内包しながら、千利休の「見立て」やマルセル・デュシャンの「レディメイド」を参照しつつ、独自の解釈を加えた新たな本歌取りの世界を構築。初公開となる屏風仕立ての写真作品《天橋立図屏風》とその発想の源泉となった頴川美術館旧蔵の《三保松原図》(兵庫県立美術館蔵)や、春日大社に関わりのある《金銅春日神鹿御正体》(細見美術館蔵)とそれを本歌とした《春日神鹿像》など、杉本作品とその発想の源泉となった「本歌」が同時に展示される。
また本展では、尾形光琳の《紅白梅図屏風》を本歌とする《月下紅白梅図》や大判の写真作品など杉本の代表作や、自身の古美術コレクションを用いた作品や陶芸作品、書跡などを出品。さらには姫路城を撮影して屏風に仕立てた《姫路城図》、書寫山圓教寺所蔵の《性空上人坐像》を本歌とした写真作品《性空上人像》といった新作も初公開される。
自身の表現領域の拡大に伴い、写真技法のみに留まらない「本歌取り論」の展開を試みる杉本。その作品の根底にある本歌取りの概念をあらためて認識できる展覧会となりそうだ。
なお本展と同時開催で、書寫山圓教寺 常行堂にて杉本博司が監督を務める映像作品《Noh
Climax》が上映。能の5大テーマである「神男女狂鬼」に「翁」を加え、それぞれの名場面を集めたもので、映像では圓教寺と姫路城の各所を舞台に、杉本が所蔵する桃山・室町時
代の能面・装束を纏った能楽師たちが、自然光の中で前近代を再現する。