【今週見るべき展示会】パリの凱旋門を布で包む。 その裏側にあるアート的思考
2021年9月18日から16日間、フランス・パリのエトワール凱旋門が布で包まれた。風が吹くと、縦に落ちたドレープがさらさらと揺れ、銀色にコーティングされた布は陽の光を反射して、朝日から夕焼けへとその色を徐々に変化させていく。凱旋門が呼吸し、生きているかのように見える。製作者はクリストとジャンヌ=クロード夫婦。布を使って景観を変える大規模なアートプロジェクトで知られる世界的美術家だ。
クリストはブルガリア生まれ。1958年、移り住んだパリでジャンヌ=クロードと出会い、パートナーとして、コラボレーターとしてともに創作活動を展開してきた。この凱旋門を梱包するというアイデアは、1961年、クリストが制作したフォトモンタージュ作品のなかで提示されていたものだ。当時、特に現実化を想定したものではなかったというが、2016年から17年にかけて転機が訪れる。ポンピドゥー・センターでの回顧展(2020年に開催)の準備中、「美術館の外で、新たに作品をつくるならば……」という議題のなかでそのフォトモンタージュの現実化が推し進められることになったのだ。構想から約60年たって実際に姿を現した《包まれた凱旋門》。ジャンヌ=クロードは2009年に死去、クリストもその製作中の2020年に他界したが、多くの賛同者がその意思を引き継ぎ、ふたりが夢見た光景が現実のものとなった。
画像: クリストとジャンヌ=クロード《包まれた凱旋門 、パリ、1961–2021》
21_21 DESIGN SIGHTで開かれている『クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”』は、このプロジェクトの制作背景と現実になるまで長い道のりに焦点をあてながら、ふたりの人生、芸術観を紐解く。主な展示物は《包まれた凱旋門》ためのドローイング(レプリカ)や設計図、完成後の写真や映像、さらに一部過去のプロジェクト作品のスライド映像など。また会場空間を、現場を疑似体験できるように今回のプロジェクトのために製作した布と赤いロープがインスタレーション的に彩られている。
クリストとジャンヌ=クロードはなぜ、アート界で注目されてきたのか。その理由はたくさんある。作品のコンセプトやスケール、アイデアを実現するためのプレゼンテーション能力、そして人を巻き込む力。本展では14人の関係者のインタビュー映像が上映されているが、すべての語り口から溢れ出るのはふたりへの親愛だ。
画像:スタジオで《包まれた凱旋門》のドローイングを描くクリスト。2019年9月21日、ニューヨークにて撮影。