ホグワーツの寸法まで丸わかり! 図面で読み解くハリー・ポッター。
映画『ハリー・ポッター』シリーズ8作品に登場する建築やインテリアなどの図面やスケッチを3章構成で初公開、美術監督のスチュアート・クレイグらによる製作エピソードも満載の本書。ずっしり重い豪華本を一読した五十嵐太郎さんに、印象を聞いた。
「こんなにきっちりした図面があるなんて、驚きました。この本を元にリアル空間を作れるぐらい詳細です。J・K・ローリング著の『ハリー・ポッター』シリーズ原作を読み返してみても、建築の描写はわずか。スチュアート・クレイグが、英国各地に残る建築に “接ぎ木” しながら、フィクションの世界を作っていったのですね」
建築史的には中世の様式、あるいはそれを復興した主に19世紀のゴシックやロマネスクのリバイバルを参照しているという。
「たとえば〈ダラム城〉回廊や〈グロスター大聖堂〉の廊下、〈オックスフォード大学クライストチャーチ〉の大広間などでは実際にロケが行われています。一方、映画のためにデザインされた〈魔法魔術学校ホグワーツ〉の外観はゴシックリバイバル様式ですが、校長室がある塔のように、大小のバランスが少々ちぐはぐなところが英国的。一方、ゴシック特有の飛び梁がなく、控え壁が外壁に貼り付いているのは、内田祥三が設計した〈東京大学大講堂〉における “内田ゴシック” のようです」
また、クレイグと共に美術を担ったセットデコレーターのステファニー・マクミランは、アールヌーボー風モチーフも装飾に用いた。
「ゴシックリバイバルもアールヌーボーも、産業革命以降に英国の都市環境が劣悪になった反動で、中世が理想の時代だったと考えた結果生まれた様式です。そういった美意識や、現存する建造物の数々がベースとなり、英国ならではの意匠が反映された世界観が誕生したのではないでしょうか」