ジョン・ポーソン改修のベルリン・防空壕跡ギャラリーで、イケムラレイコの企画展が開催。
この場所で、ドイツを拠点に活動する美術家イケムラレイコの展示『動物がアートになるとき』が今夏スタートした。絵画、彫刻、ドローイング、水彩、版画、写真など多岐にわたる手法で人と動物や植物、ランドスケープを融合したアートを発表してきたイケムラが、新作を含めた作品と彼女自身のぬいぐるみのコレクションを展示する。
同館設立者のデジレ・フォイエルレ氏とイケムラの出会いはケルン時代から。ある日、イケムラがフォイエルレ夫妻を自宅に招いた時にイケムラがシュタイフのヴィンデージぬいぐるみをいくつも持っていて、彼女の顔が嬉しそうな遊び感覚に変わったことがこの展示のきっかけとなったという。イケムラの秘めた部分を垣間見ることで、彼女自身が作り上げる動物や自然とのハイブリッド作品と共に、彼女の愛してやまない動物のぬいぐるみコレクションを展示に加えることを考えついたそうだ。
「ぬいぐるみは手にした時の感覚がとても好きです。アンティークのこうしたぬいぐるみは無名な人が一生懸命、心を寄せて手作りしていたことに惹かれます。現代アートの世界はどうしても名前が先に立ってしまう。陶器やカーペットもそうですが、誰が作ったのかわからない時間を超えた温かみがあります。また、古いぬいぐるみは一度は子供に大切にされていたのに、置き去りにされてしまうメランコリーさという面もありますよね。こうした感覚は自分の作品づくりにも刺激を与えてくれます。
暗さに慣れてから明るさに気づく展示方法といい、フォイエルレさんとはモノの見方が似ていると感じるのです。彼とのコラボレーションは共感と信頼から生まれました。核の残骸のような空間に新しい生命が宿り、今回、動物たちが展示されることで、遊び心もある生き生きとした展示になったと思います」(イケムラ)
イケムラ自身は繊細さはどの国にもあるけれど、昨今、ものを作る大切さがあまり評価されていないことに疑問を感じ、残念に思うと語る。手作業で鋭い洞察力からモノを作ることの美しさ。シュタイフのぬいぐるみもそれぞれ、時を経てアートと匹敵する価値のあるものだと感じているそうだ。
「イケムラレイコの作品には子供っぽいところとダークな部分が両立しています。とても日本的で繊細で控えめな部分と秘めたアグレッションもある。高いレベルの洗練度を感じますね。彼女は国外にいることで解放された表現者として自由でいれるのかとも思います」(フォイエルレ氏)
黒いベルベットに並ぶぬいぐるみたちはそれぞれ物語があって、今にも話しはじめそうだ。大きなクッションに沈み込むようなガラスのウサギはずっしりと重く、生きているかのようにも感じる。イケムラレイコとデジレ・フォイエルレの対話による小宇宙がシルクルームに溶け込んでいる。
〈フォイエルレ・コレクション〉Hallesches Ufer 70 10963, Berlin Germany。TEL +49 (0) 30 2579 2320。~2024年1月7日。入場は公式サイトからの予約制。金曜14時~18時と土曜・日曜11時~19時。入場料22ユーロ。