「生」を敬う、上田義彦の力強い眼差し。
国内外で高い評価を受け、40年以上もの間第一線で活躍し続けている写真家の上田義彦。「この世の成り立ちを見つけたい」という思いから、これまでに国内外の著名人のポートレートや北米の森林、自身の家族、ガンジス河、林檎の木などを作品の被写体としてきた。
今回の展覧会、および作品名となる『Māter』(マーター)はラテン語で「母・源」という意味。夜の月光で滝や渓谷と、女性の身体を撮影し、それを1 対の作品とした。
太古から連綿と続く命を生む力として、自然(水)や女性の体は対等な、密接に繋がるものであり、朧げに写し出された水流と女性の体の肌のなめらかさに、なにか共通の感覚が見えてくる。
今回の作品は、1990年に撮影したアメリカインディアンの聖なる森『Quinault』に始まり、2011年に屋久島の森を撮った『Materia』、そして2017年の『林檎の木』に続く、命の大元を探る一連のシリーズの延長上にあるものだという。
── 大型カメラを担いで森を彷徨い、徐々に見え始めた写真の姿を見失わないよう「Materia」と名付けた。木の幹、そして命を生む力という意味を持つこのラテン語に出会い、それまで霧に包まれていたように、ぼんやりとしていた写真の輪郭が、鮮明に姿を現した瞬間だった。──
『Materia』(求龍堂)
「Materia」(木の幹)、「Water」(水)という言葉自体もまた「Māter」(母・源)から派生したものであり、古代の人々は、すでにこの世界の原理を見つけ、後世に伝える言葉で残していた。そこに託された背景が忘れさられた現代に、上田の写真は改めてその遥かな世界の成り立ちを私たちに表す。その芳醇な世界観を、ぜひ会場で堪能したい。
〈小山登美夫ギャラリー〉東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F TEL 03 6434 7225。~2022年9月24日。11時~19時。日・月・祝日休。