「好きな囲いはない」藤井聡太竜王が竜王戦七番勝負で示す「玉周り」の未来
同じ質問に対し、先に答えることになった広瀬八段は「(好きな囲いは)穴熊かな。昔、私が得意だった戦法で、王様が堅くて、みんなも1回はやったことがあると思うけど。やっぱり穴熊には個人的に思い入れがあります」と、お兄さんぽく児童らに語っていた。広瀬八段の振り飛車穴熊は2010年に、初タイトルの王位獲得の原動力となった戦法だ。
将棋を指す人は、入門者、初心者という過程を経て、級位者くらいになると、「囲い」を覚えるのが通例だ。ここでは「美濃」「穴熊」「銀冠」「矢倉」という囲いの代表例を示した。しっかり玉を囲って、そこから仕掛けが始まる。プロの公式戦でも昭和時代、平成時代と、そうした考え方に基づいた定跡が無数に作られ、「囲い」というのは金銀3枚で構成されることが多かった。
さて、「好きな囲いはない」という藤井竜王は続けて「囲いは、相手がどこから攻めてきそうかを考えて、それに対してこちらが相手の攻めを受けるには、どうしたらいい形になるのかというのを考えて囲うことになる」と答えた。小学生からの質問に対し、完全に「プロ向け」の返答をした藤井竜王。広瀬八段はマスク越しでも、吹き出しそうになっているのがわかった。「藤井さんの答えがあまりにも本音で、笑いが出てしまいました。レベルが高すぎて、子供たちは誰も本質的な意味を理解できなかったと思う」と広瀬八段は話した。
藤井竜王の言葉は、令和時代に入って将棋の囲いの概念が変化していることを端的に示していた。自身の発言を裏付ける戦い方が竜王戦第3局で見られた。図面を使いながら紹介する。