渡し船に高齢化の波 「体力も気力も限界」…世界遺産・熊野古道
渡し船は、和歌山県の海沿いを通る熊野古道「 大辺路おおへち 」にある。同県白浜町内の「富田坂」と「仏坂」の間にある日置川(幅約80メートル)を木製の川船で渡る。地元の集落「 安居あご 」にちなみ、「安居の渡し」と呼ばれる。県内の熊野古道で、船がないと先に進めない唯一の場所だ。
江戸時代にはあったとされ、1950年代半ば頃に廃止された。2004年の世界遺産登録を機に集落の有志が翌年、「安居の渡し保存会」を結成して復活させ、会員7人が交代で船頭を務めた。
清流と山々の織りなす絶景を気軽に楽しんでもらいたいと、渡し賃は500円に抑えた。もうけはほぼなくても「地域活性化につながればいい」と続けてきた。乗船時間は2~3分だが、乗客全員に救命胴衣を着用してもらうなど安全対策を徹底し、これまで無事故。昨年7月に累計の利用客が1万人を超えた。
だが、今では船頭は全員、60、70歳代に。集落は少子高齢化が進み、後進の若者も見つからない。大雨で川が増水する度、渡し場に駆けつけ、2隻の船を重機で陸に引き上げる作業も重荷だった。船頭仲間で話し合い、休止を決めた。
富田坂から仏坂へと向かう 迂回うかい 路は1本あるが、2011年の紀伊水害に伴う土砂崩れで通行止めが続く。渡し船が休止したことで、大辺路の踏破が困難となり、観光客から「渡し船はいつ再開するのか」などといった問い合わせが白浜町に10件以上寄せられているという。
保存会の生本洋三さん(73)は「続けたいが、体力も気力も限界」と明かす。ただし、毎年修学旅行で利用してくれていた学校などから希望があれば「可能な限り応えたい」という。