古今東西 かしゆか商店【波紋のすり鉢】
日本の手仕事には、「これって家電の原型?」と思えるものがたくさん。例えばすり鉢は、すったり混ぜたりつぶしたり……と、フードプロセッサーそのものです。
今回出会ったのは、内側の櫛目が「波紋」状になったもの。指でなぞると櫛目の山がきりっと立っていて、とてもよくすれそうです。
「左利きの人も使いやすいすり鉢を作ろうと思ったのが、波紋の形が生まれたきっかけです。長芋も山芋も、力をかけずに早く細かくすりおろせるんですよ」
そう話すのは岐阜県多治見市の〈山只華陶苑 藤兵衛窯〉7代目、加藤智也さん。寛政6年(1794)に創業したこの窯元は、代々、美濃焼のひとつである高田焼のすり鉢を作り続けています。
「あの山の一部だけで採れる灰色の“青土”が、高田焼の材料です」
と工房から見える山を指す加藤さん。耐久性が高く粒子が細かい青土は、すり鉢に最適なのだとか。
「成形に使うのは水ゴテという機械。器を形作る作業と、その内側に鉄板の櫛を当てて櫛目をつける作業を、同時進行で行います」
足先を小刻みに動かして水ゴテのブレーキを操作したり、右手と左手を別々の方向に動かしたり。複雑な動きに見とれている間に、Jの字形の櫛目が誕生しました。
「手作業で櫛目を引くことで、土の中にある細かい粒子を表に掻き出しているんです。波紋の型を押し当てれば模様は簡単につきますが、土が押しつぶされてしまい、ザラッとした櫛目にはなりません」
内側に薄く釉薬をかけて土に染み込ませることで、土の強度を高めているのも特徴。世の中に磁器のすり鉢が増えてきたころ、それでも自分たちの山の土を生かしたくて、磁器に負けない強さを持たせるために考えた方法です。