「人口最小の県」が目指す新たな美術館。鳥取県立美術館が25年春に開館へ
鳥取県立博物館は1972年に開館した総合博物館だ。自然、歴史・民俗、美術の3ジャンルを有するミュージアムとして運営されてきたが、開館から40年以上を経て施設は老朽化。また収蔵庫のスペース不足などの問題もあり、2017年に「鳥取県立美術館整備基本構想」がまとめられた。
「ひろま」が貫く美術館
鳥取県立美術館のコンセプトは「未来を“つくる”美術館」。槇総合計画事務所と竹中工務店のジョイントベンチャーが設計を担う。
同館が位置するのは鳥取県中央部にある倉吉市で、市立図書館が入る倉吉パークスクエアと国指定史跡である「大御堂廃寺跡」に隣接する場所。美術館はこのユニークベニューを生かすかたちとなる。
建物は地階なしの3階構造。1階には倉吉駅周辺地区とのつながりを生み出すエントリープラザと、それを覆う「大屋根」が来館者を迎える。それを抜けると、そのまま吹き抜けのエントランスロビーへと動線がつながる構造だ。
特徴的なのは、館内の全フロアを縦に貫く巨大な空間「ひろま」。展示やワークショップ、コンサートなど多様な用途が見込まれるこの場所を中心に、展示室やテラスなどへの導線が生み出される、まさに美術館のコア部分だ。
このひろまは、外側に「えんがわ」と称した空間を設けることで、外に広がる大御堂廃寺跡とのシームレスなつながりも実現する。
展示室は特別展示コーナーを含めると7つ。2階には5つの常設展示室(各180~200平米)と収蔵庫(1710平米)が、3階には企画展示室(1000平米)が配置される。また3階には「大御堂廃寺跡」を一望できる展望テラスが生まれ、憩いの場として機能する。
また、施設ではないものの、アートを通じた学びを支援する「アート・ラーニング・ラボ」が機能として設けられる点は注目すべきだろう。
収集方針を拡大。若手作家も対象に
コレクションの収集方針も新たにされた。同館では、博物館時代の既存方針「鳥取県の美術」を引き継ぎつつ拡大する。
新たな収集方針として掲げるのは、「国内外の優れた美術」と「同時代の美術の動向を示す作品」。美術館整備局で美術振興監を務める尾﨑信一郎は、これまでの方針では収集できなかった目玉作品や、評価が定まっていない若手作家も積極的にコレクションしていきたい考えを示す。
「国内外の優れた美術」に含まれるのは、「江戸絵画の多様性を示す優れた作品」「近代(明治~戦後)における各分野の参照点となる優れた作品」「戦後の美術・文化の流れを示す優れた作品」「館の内外に半恒久的に設置する作品(現存作家への委託制作作品)」。これまでにアンディ・ウォーホルの《ブリロ・ボックス》や、村岡三郎の《Standing
Bed》などがすでに収蔵されている。
いっぽうの「同時代の美術の動向を示す作品」には、過去20年で目覚ましい活動をした作家の作品や、同館で企画展およびスタジオ・プログラムに参加した作家の作品などが含まれる。近年では、竹川宣彰、眞島竜男などの作品がすでに収蔵済みだ。
気になる今後の購入予算については、基金というかたちで年間約5億円を確保するという。
PFIで運営。年間来館者数10万人目指す
この新美術館には、民間の資金や経営能力を活用する「PFI方式」が採用されている。この仕組みは大阪中之島美術館などでも導入されており、美術館の世界でも徐々に認知度が上がっているものだ。
鳥取県立美術館では、大和リースを代表企業とする10社からなる鳥取県立美術館パートナーズが建設。完成後の所有権は県に移管したうえで、維持管理・運営を鳥取県立美術館パートナーズが担う。学芸部門は県の直営だが、一部の企画展はPFIが学芸部門と協力するたちで担当するという。PFIの事業期間は2040年までとなっており、その総事業費は約142億円に上る。
県庁所在地鳥取市と商業の中心地・米子の中間地点で開館する鳥取県立美術館。県が目指す年間来館者数は10万人だ。
コロナ邂逅、世界的に見ても美術館運営を取り巻く状況は易しいとは言えない。都心のブロックバスター展でさえ、コロナ以前の水準に戻るかどうかは不透明だ。そうしたなかで開館を迎えようとする鳥取県立美術館。美術館整備局の梅田雅彦は、「コロナでコミュニケーションが損なわれた時代が続きた。対話型鑑賞などを通じたコミュニケーションの復権を目指したい」と意気込みを見せる。また、この美術館を起爆剤にし、観光客をこれまで以上に誘致したいという狙いも見える。
昭和末期から平成初頭にかけて相次いで開館した日本の公立美術館。そうした公立美術館のなかでも「ほぼ最後」となる鳥取県立美術館は地域、そしてアートシーンにどのようなインパクトをもらたらすだろうか。今後の展開に注目したい。