フランク・ロイド・ライトの名作住宅に、現代アートが並びました。
ロサンゼルスの小高い丘の上に、フランク・ロイド・ライトがこの街に初めて建てた住宅がある。1921年に完成してわずか数年後には、運命的に市に寄贈されることになった〈ホリホック・ハウス〉だ。
今では市内で唯一一般公開されているライト建築として貴重な観光地となっているが、この春、そこに初めて現代アートが展示される運びとなった。その企画第1弾、陶芸家のアダム・シルヴァーマンとペインターのルイーズ・ボネット夫妻による2人展を訪ねてみる。
施主のアリーン・バーンスダール(油商の家系で、シアターやアートのパトロン)の好きな花、立葵(ホリホック)をモチーフに使った、のちにマヤ復興建築様式と呼ばれた住宅建築。1921年に完成してから間も無く、1927年にロサンゼルス市へ寄贈された。日本建築様式に感銘を受けたというオープンなフロアプランや、ライトが直接バーンスダールのために見立てたという屏風絵が残っていることから、ライトの日本への傾倒が伺える建築でもある。2019年にはユネスコ世界遺産にも登録された。
「小さな入り口から広がる空間。天井の低い通路の先の、明るい部屋。ライト建築のボリュームの駆け引きをインスピレーションに、制作しました」と話すのは大の建築ファンでもあるアダム。
近年研究を続けている海からの藻や各々の土地に生育する木などの天然素材を使った今回の釉薬には、この敷地に生えるオリーブの木の枝も含まれるとか。また、〈ホリホック・ハウス〉を舞台に実現した妻のルイーズとの2人展は、夫妻で初めてのコラボレーションともなった。
「自宅でもいろんなアート談義はするけれど、制作はあくまでも各々の世界。白壁ギャラリーとは全く違うこのライト住宅自体の持つ物語と、空間の醸し出す色と光、そんな要素とのコラボレーションも醍醐味でした」とルイーズも加える。
“自身の中から潜在的に出てくるモチーフ”というルイーズのキャンバスにははち切れんばかりのテンションが描き込まれる。
『Entanglements/絡み合い』と名付けられた今展示の暗喩には表現者同士の対話、偉大な建築への畏怖、そして一筋縄にはいかなかった施主と建築家の関係さえも含まれている。